弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
  • HOME
  • >
  • 裁判
  • >
  • 【裁判・労働】力士契約の法的性質等について判断した裁判例(東京地裁H29・3・28)
  • 【裁判・労働】力士契約の法的性質等について判断した裁判例(東京地裁H29・3・28)

    判例タイムズ1457号244頁に掲載されています。

    本判決は力士契約の法的性質について、下記のとおり述べ、結論として契約終了を認めました。力士契約の法的性質については、準委任契約とするもの、労働契約(同視)と把握するもの、双方をあわせた無名契約とするもの、特に判断せずに結論導くもの等の複数の裁判例があり、上記判例タイムズの解説欄にまとめられています。

    社会的にも関心が寄せられていたことやスポーツ競技における競技者の法的保護のための検討事案としても参考になろうかと思われます。

    本件力士契約ないし本件力士契約と同趣旨の力士と被告との間に締結される契約(以下「力士契約」という。)は、力士において、相撲道により培った技量を被告の主催する本場所又は巡業における相撲競技において発揮するという義務を負うことを本質的な内容とするものということができる(上記第2の2(2)の前提事実)。そして、大相撲におけるこの力士の義務として具体的に果たすべきものは、精神的、肉体的に厳しい修練を経て可能となる極めて高度かつ専門的なものであって、個々の力士がその履行に当たって被告の指揮命令を受けるものではなく、当該力士自身が自主的・主体的に追求した技量を発揮することによって行われるものであることが明らかであるから、原告及び被告らが共に主張するとおり、力士契約は、その基本において、準委任契約に類似した性質を具有するものとして是認することができる。

    もっとも、上記(1)アからオまでにおいて認定した本件定款、本件規則、本件業務委託契約、本件業務委託費用規程及び本件賞罰規程の各定めにおいて明示的に定められ、又はその当然の前提とされているように、力士契約においては、力士を志望する者は、原則として23歳未満の者とされ、被告の事業の実施にあたる年寄であり、かつ、被告から力士等の育成の業務委託を受けた師匠の地位にある者が運営する相撲部屋に所属し、師匠を経て被告の協会員たる力士としての地位を取得した上で、当該相撲部屋に所属する他の力士らと寝食を共にし、相当期間にわたって、相撲道の精進に向けての生活指導を含めた育成指導を師匠から受け、本件賞罰規程の規律にも服することが予定されているものであり、また、このような力士契約の内容の実施を可能とするために、師匠に対しては、別途にその費用や報酬が被告から支払われることが取り決められているものと解される。このような力士契約の内容は、民法制定前から存在する相撲部屋制度を含む力士と師匠との関係を踏まえた取引法原理に直ちになじみ難い側面を有することを否定することができないものの、法的には、準委任契約に類似した性質をその基礎として有しつつも、単なる事務の委任にとどまらない複合的な要素をも含むものとして、全体としては、力士と師匠及び被告との間の信頼関係を基礎とした継続的な有償双務契約としての性質を有する無名契約と評するほかない。

    このような力士契約の内容や性質に鑑みると、民法第656条の規定において準用する同法第651条第1項の委任の解除に関する規定をそのまま適用することはできないが、上記(1)カにおいて認定したように、相撲部屋制度を前提とした上で、力士の養成を被告から一任され、力士が居住する相撲部屋を運営し、その指導を行う地位にある師匠が引退届を被告に提出することにより力士契約を終了させることが予定されているということ(上記第2の2(4)及び(5)並びに上記(1)キにおいて認定した原告並びに□□親方及び被告の行動も、これに沿うものであるということができる。なお、この引退届を師匠が被告に提出することによる力士契約の終了は、本件賞罰規定第4条(7)の懲戒解雇とは別個の力士契約の終了事由であると解される。)自体には、一定の合理性を見いだすことができる。しかしながら、上記において説示したように、力士として相撲部屋に所属することが力士にとって生活の基盤そのものでもあり、これを力士契約が当然の前提としていると解されることからすれば、当該力士自身による承諾がない場合においては、これを特別な事情というかどうかは措くとしても、力士契約を終了させる師匠による引退届の提出については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないようなものではないものでなければならないと解することが、力士契約における当事者間の合理的意思にかなうものとして、相当である。