弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
  • HOME
  • >
  • カテゴリー: 金融
  • 【裁判・金融・刑事】金融商品取引法のインサイダー取引規制につき、他人がインサイダー情報を利用して不正な取引をすることを教唆する行為に可罰性があるとして、原審の有罪判断を維持した高裁判例(東京高裁H27・9・25)

    東京高裁平成27年9月25日判決(判例時報2319号123頁)は、弁護人側の『金融商品取引法167条3項(公開買付者等関係者の禁止行為)からすれば、伝達行為は不可罰である』旨の主張に対し、「金融商品取引法が、同法167条1項各号において、公開買付者等関係者が公開買付け等に関する事実を知って自ら取引を行うことを規制している趣旨は、公開買付者等関係者が、職務上知り得た、一般投資家が知り得ない会社内部の特別な情報を利用して株取引を行った場合には、一般投資家に比べて著しく有利になるのであって、そのような取引は極めて不公平であることに加え、そのような取引を放置すると、証券市場の公正性と健全性が損なわれ、ひいては、証券市場に対する一般投資家の信頼が失われることから、そのような不公正な取引を防止しするところにあると解される。そして、公開買付者等関係者が自ら取引をしない場合であっても、第三者に公開買付け等に関する事実を伝達して、脱法的に第三者に取引を行わせる場合があり得るのであり、そうでないとしても、公開買付者等関係者から公開買付け等に関する事実の伝達を受ける第三者は、公開買付者等関係者と何らかの特別な関係にあると考えられ、そのような者が取引を行った場合にも証券市場の公正性が害されるから、金融商品取引法は、同法167条3項において、公開買付者等関係者から公開買付け等に関する事実の伝達を受けた第一次情報受領者による取引も禁止の対象としている。このように、同条3項の規制は、同条1項各号の規制を補完し、インサイダー規制の趣旨を徹底することを目的としたものと理解できる。」「このように、金融商品取引法は、公開買付者等関係者自身が公開買付け等に関する事実を知って自ら取引を行うことを規制しており、それに加えて第一次情報受領者による取引をも規制してインサイダー取引の規制の徹底をはかっているのであって、そのような金融商品取引法のインサイダー取引の規制のあり方に照らせば、同法167条3項違反の罪の教唆行為は十分に可罰的であると解すべきであって、その教唆行為に対して刑法総則の教唆犯の規定を適用することは、同条の立法趣旨に何ら反していないと解される。」と述べ、原審の有罪判断を維持しました。

     

    金融商品取引法の適用事例として、実務上、参考となるものです。

    【裁判・国家賠償】いわゆる過払訴訟における裁判官の貸金業者に対し同社に有利な偏頗的な釈明権を行使したことが違法とし、国家賠償を命じた裁判例(神戸地裁H28・2・23)

    違法な釈明権行使を行った裁判官は、消費者側代理人退席後に、しかも別件事件について消滅時効の主張を促すなどの釈明権行使を行ったというもので、神戸地裁平成28年2月23日判決(判例時報2317号111頁)は、「民事訴訟の根幹に関わる当事者の平等取扱いに係る利益に対し、裁判官が職務上必要とする配慮を明らかに欠いたものといえるから、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうる特別の事情があるというべきである。」と述べ、国家賠償(5万5000円)を命じました。

     

    本件のような違法な釈明権行使を行う裁判官の存在は司法へ信頼を根底から失わせ得るものであり、強い危機感を感じるところです。

    【裁判・金融】社会福祉法人が銀行を介して証券会社から期限前償還条項付為替リンク債を購入した場合について、法人の定款上必要な理事会決議が存せず、契約の効果が法人に帰属しないとされた事案(東京高裁H28・8・31)

    東京高裁平成28年8月31日判決(判例時報2315号23頁)は、証券会社の過失も踏まえ、法人への効果帰属を否定しました(上告・上告受理申立あり)。

     

    証券会社・金融機関の調査確認義務の範囲として議論される問題でもありますが、地方公共団体との事案では、住民が自治体担当者の言動を信頼しても、『議会承認が必要』として効果不帰属とされていることからすれば、それらに整合的な判断とも言えます。

    【裁判・金融】EB債の販売につき証券会社の担当者に説明義務違反を認め、過失相殺なしの賠償を命じた裁判例(大阪高裁H27・12・10)

    はじめてEB債を購入する顧客に対し、契約締結前交付書面を交付せず、元本欠損のおそれ等の重要事項の説明をしていないもので実質的な説明義務も尽くしていないとし、過失相殺無しの賠償を命じた事案です(大阪高裁平成27年12月10日金融商事判例1483号26頁)。

     上告・上告受理申立てがなされたようですが、一審(大阪地裁平成27年4月23日判決)を変更するもので、実質的な説明の程度を示すもの、過失相殺を行わないものとして参考になると思われます。

    【裁判・金融】岡三証券仙台支店をめぐる顧客に対する1年間にわたって日々虚偽の株価を報告していた事案についての提訴記事(河北新報H28・1・21)

    本日(平成28年1月21日)の河北新報記事からです。
    岡三証券仙台支店をめぐる、顧客に対する株価虚偽報告の事案です。岡三証券仙台支店では、下記記事にもありすように
    過去にも高齢女性への被害事案(訴訟上の和解で岡三が一定額を賠償したもの)があり、根深い問題があるように感じられます。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201601/20160121_13013.html

    <株価虚偽>岡三証券を提訴


     準大手証券の岡三証券仙台支店(仙台市青葉区)からうその株価を繰り返し教えられ、損失が膨らんだとして、同市泉区の無職男性(69)が20日、同社と同支店の担当者に約800万円の損害賠償を求める訴えを起こした。
     訴えによると、取引は2013年9月に始まり、同支店はグーグルやツイッターなど海外5社の株1000万円分を販売。投資相談を担当した副主任が毎日、電話で男性に終値を報告していた。
     副主任は14年11月、運用状況について56万円の損失があると説明。男性が詳しい説明を求めたところ、実際の損失は約310万円に上り、副主任の日々の電話報告が虚偽だったことが判明した。男性が毎日メモしていた株価と実際の株価との違いから、13年11月から約1年間にわたって虚偽報告が続いたとしている。
     男性側は「老後資金をほとんど預けるほど信用していた。金融商品を扱う業者による虚偽報告は極めて悪質で、証券取引への信頼は根底から崩れた」と主張する。
     岡三証券グループ広報部は「まだ訴状が届いていない。内容を精査し、対応を検討したい」と話した。
     提訴に先立ち、男性側は昨年6月、損害賠償などを求め仙台簡裁に調停を申し立てた。同社側は14年3月以降の約8カ月間について虚偽報告の事実を認める一方、法的責任を否定。同社が示した賠償額も折り合わず、協議が決裂したという。
     同支店をめぐっては、交通事故で判断力が低下した太白区の無職女性(81)が新たな株取引を勧められて損害を受け、賠償を求める訴えを仙台地裁に起こし、14年12月、同社が違法行為を認めて和解した。

    【裁判・金融】銀行の約款に基づく預金払戻請求拒絶につき正当な理由が存しないとして遅延損害金の支払いを命じた裁判例(福岡高裁H27・2・12)

    裁判所から選任された成年後見人から銀行に対する預金払請求に対し、銀行が通帳・印鑑について別の者が所持しているとして約款に基づき支払拒絶した事案です(福岡高裁平成27年2月12日・判例時報2260号52頁。確定しています)。実務上、銀行が自らの約款を主張し、これに拘泥して、他の社会制度(成年後見や訴訟回避のための方策)をないがしろにする扱いが散見されますが、そのような不当な扱いを是正する意味合いもあろうかと思われます。

    【情報・金融】証券・銀行関係の紛争の状況・あっせん事例(証券業協会・銀行協会HP)

    あっせんの事例が掲載されています。
    下記が最新の掲載内容ですが、各HPにはそれ以前の事例や総数なども掲載されており、
    深刻な状況が把握できます。
    日本証券業協会のあっせんの事例 平成26年7~9月
    http://www.jsda.or.jp/sonaeru/kujyou/assen2607-09.pdf
    全国銀行協会のあっせんの事例 平成26年7~9月
    http://www.zenginkyo.or.jp/adr/conditions/index/conditions01_2602_2.pdf

    【裁判・金融】金融商品取引法21条の2(虚偽記載のある書類の提出者の賠償責任)に基づく損害賠償金が所得税の課税対象とならないとする裁判例(神戸地裁H25・12・13)

    神戸地裁平成25年12月13日判決(判例時報2224号31頁)は、税務署側の金融商品取引法21条の2(虚偽記載のある書類の提出者の賠償責任)に基づく損害賠償金への所得税としての課税処分につき、「本件損害賠償金は、虚偽記載という違法行為がなかったならば得られたであろう収益を補てんするものではなく、虚偽記載の公表によって失われたA株式の価値、すなわち資産に加えられた損失を回復させるものであるから、「収入金額に代わる性質を有するもの」(令94条1項柱書き)とはいえない。」として課税処分を取り消しました(確定)。

    金融商品取引をめぐる課税処分には問題が多いところですが、税務署の判断が否定された実務上の判断として参考になると思われます。

    【裁判・金融】FX取引における、顧客と業者との間の、取引高によるキャッシュバック契約につき、業者の支払い拒絶を信義則違反として、顧客の請求を認めた裁判例(東京地裁H26・6・19)

    FX取引の裁判例は、通常、業者の勧誘行為やシステム上の問題に関するものが多いなか、キャッシュバックの合意等が問題とされためずらしい事案です。

    ご担当された弁護士(事務所)は投資被害救済関係などで先進的な判決を多数獲得され、また、その解説もなされており、本件もHPにおいて掲載されています。

    http://aoi-law.com/article/s_fx_02/

    【裁判・金融】成年後見開始取消審判後の間もない時期に行われた金融商品取引にかかる損失につき、顧客から証券会社に対する損害賠償請求が認められた裁判例(大阪高裁H25・2・22)

    大阪高裁は、顧客の状況につき「本件取引開始(平成20年1月20日)当時、一人暮らしの満76歳の女性であって、その年齢自体、相当な高齢であることから、年齢相応に判断能力が低下していたことが容易に推認できるし、投資に関し、適切な助言ができる者が側にいたわけでもない。」「しかも、平成17年3月には、正常圧水頭症にアルツハイマー病を合併した痴呆により、判断能力が低下し、後見を開始されていたのであり、平成19年11月30日には正常圧水頭症が改善したこと等から、後見開始の審判が取り消されたものの、それから2か月も経たないうちに本件取引が開始されているのである。」と認定し、後見開始取消審判が存したとしても、「主体的な判断で証券取等を行うことが不可能な状態であったということができる。」として、証券会社へ賠償を命じました(判例時報2197号29頁。なお、過失相殺2割。確定しています)。

     

    顧客の状況は、顧客に直接会えばより一層感得されるはずですから、こうした顧客をして証券取引を行わしめる業者の実態を明らかにする意味でも、とても重要な事案と思われます。