【裁判・労働】MLC契約に基づく在日米軍基地労働者に対する国による解雇が違法として無効、賠償を命じた事例(東京高判H29・2・23)
判例時報2354号74頁に掲載されています。
MLC契約は在日米軍基地のない地域では聞き慣れない契約形態ですが、国が労働者を雇用するが、その労務を在日米軍及び諸機関に提供する契約とされています。国側主張の労働者のパワーハラスメント等の事実を否定したもので、労働裁判の解雇違法の判断としても参考になるものです(確定しています)。
【裁判・労働】労働基準法の割増賃金規定(労基法37条)の趣旨を再度明らかにした最高裁判例(最高裁H29・7・7)
社会的にも注目された医師の年俸制と残業代が問題になった事案で争点は複数ありますが、最高裁が労働基準法37条(時間外労働への賃金規制)の趣旨につき、「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁参照)。」と判示しました。
残業代請求事案が単に経済的問題にとどまらない人間生活の本質的問題にあることを改めて確認している点でも重要な意義があると思われます。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
○3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
○4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
【裁判・労働】翌日付けでの転居を伴う異動命令を違法とした裁判例(東京地裁H29・5・31)
東京地裁平成29年5月31日判決(労働判例1167号64頁)です。いわゆる固定残業代など複数の争点ある事案ですが、・・・を引用したうえ、「本件異動命令が報復的措置としてなされたものではないとしても、翌日から転居を伴う異動を命ぜられた労働者の不利益からは、通常甘受すべき程度を著しく超えるものと評価するのが相当である。」として、異動命令は不法行為を構成するとし、異動命令が数日後に取りやめになったことを踏まえても、金9万円(慰謝料)の賠償を認めるのが相当としたものです。
労働現場では翌日・数日後の命令が出されることもあり、以前はこうした命令が有効性とされることもありましたが、近時の社会状況等の変化を踏まえた労働者の生活・権利保護に参考になるものと思われます。
【裁判・労働】吹雪による吹き溜まりに埋まり走行不能となったタクシー運転に関し労基署長の不支給決定を取り消し、労災と認定した事例(札幌地裁H29・5・15)
労働判例1166号61頁以下に掲載されています(確定)。
札幌地裁平成29年5月15日は、「本件事故の原因となった本件事故前後の気象状況は、通常の業務において遭遇することがまれな異常な災害と認められ、本件事故に遭ったことによって、原告には強い精神的負荷がかかり、本件脱出作業を余儀なくされたことで、原告には、相当程度に強い身体的負荷もかかったと認められるから、全体として考慮すると、本件事故及び本件脱出作業は、認定基準にいう異常な出来事であったと認めるのが相当である。」などと述べ、労災該当性を認めました。
猛吹雪などの自然災害下の労災事案として実務上も参考になると思われます。
【裁判・労働】セクハラ発言等を理由とする懲戒解雇を無効とした裁判例(東京地裁H28・7・19)
東京地裁平成28年7月19日判決(労働判例1150号16頁)は、懲戒解雇対象者の発言等はそれぞれ懲戒事由に該当するとしながら、「懲戒処分における極刑といわれる懲戒解雇と、その前提である諭旨退職という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには足りないというべきである。」として懲戒解雇を無効としました(控訴あり)。
懲戒事由が存するとしても如何なる処分が相当かは別途検討を要するものであり、実務上、参考となるものです。
【裁判・労働・学校】私立高校における年度途中のクラス担任外しについて、不当労働行為(支配介入)にあたるとして、労働委員会の救済命令を維持した裁判例(東京地裁H28・6・29)
東京地裁平成28年6月29日判決(労働判例1150号33頁)は、学校側が生徒とのトラブルを理由に年度途中クラス担当を外した行為につき、「本件解任は、教員の重要な業務であるクラス担任としての職務を剥奪するものであり、クラス担任の年度途中での変更が異例の措置であり、教員としての不適格性を推知させるものである上、本件解任は、前記認定のとおり、必要性及び合理性を欠く措置であって、その決定に当たってD1の弁解の聴取などの相当な手続を経ていないことからすると、本件解任によってD1は職務上、精神上の不利益を被るものといえる。」として、私立高校側の不当労働行為を認定しました。
本件は不当労働行為の場面ですが、現場教員におけるクラス担任の重要性や、これを年度途中に外すことの対外的意味・効果等も踏まえた判断で、教員に対する違法・不当な取扱いに対する私法上の救済にも参考になるものと思われます。
【裁判・行政・労働】公立学校教員に対する懲戒免職処分・退職金不支給決定を違法として取り消した裁判例(札幌高裁H28・11・18)
札幌高裁平成28年11月18日判決(判例地方自治418号50頁)は、懲戒処分等の対象事実である非違行為が音楽ソフトの無断複製とインターネットのオークションサイトに出品し30万円の利益を得たということを基礎に、対象者のこれまでの勤務状況が良好だったこと、真摯な反省等のほか、免職処分が教員の地位を失わせるという重大な結果を招くことも踏まえ、「本件免職処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱したものというべきである。」として、懲戒免職処分・退職金不支給決定を違法として取り消しました。
地裁は処分を有効としていたものですが、非違行為の内容からすれば高裁の判断が妥当と思われ、地裁判断との相違も含め、実務上、参考になるものです。
【情報・労働】厚生労働省による労働基準法違反企業名公表一覧(厚生労働省HP)
【裁判・労働】アスペルガー症候群由来の行動等を理由とする公立大学の准教授の解雇について無効とした裁判例(京都地裁H28・3・29)
京都地裁平成28年3月29日判決(労働判例1146号65頁)は、「原告について、被告が教員として問題であるとする行為や態度には必ずしもそのおうに評価することが相当でないものも含まれ、これを措くとしても、被告から原告に対する指導や指摘がなかったために、原告がこれを改善する可能性がなかったとまでは認められず、また、被告における原告への配慮が限度を超える状態に達していたとも認められないのであって、これらを総合評価すると、未だ、原告が大学教員として必要な適格性を欠くと評価することはできない。」と述べ、解雇を違法・無効としました(控訴あり)。
解雇の客観的合理性の判断事案として参考になると思われます。
【裁判・労働】長時間労働・パワハラにより精神疾患を発症し自殺に至った事案について、相当因果関係を認め、使用者に損害賠償を命じた裁判例(福岡地裁H28・4・28)
福岡地裁平成28年4月28日(労働判例1148号58頁)は、本件自殺前の半年間に恒常的に月100時間前後の時間外労働に従事していたこと、継続的な叱責及び暴行を受けていたことなども踏まえ、自殺との相当因果関係も認め賠償を命じたものです(控訴棄却・確定)。
深刻な労災被害事案の救済につながる判断と思われます。
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