【裁判・家族】離婚給付等契約公正証書の離婚慰謝料請求権に基づく債権差押命令について、地裁の判断を取り消し、差押えを認めた高裁決定(東京高裁H28・1・7)
離婚慰謝料の合意に基づき離婚前に差押えが認められるか否かが争点となった事案です。東京地裁は認められないとしましたが、東京高裁平成28年1月7日決定(判例時報2312号98頁)は認めたものです。条項解釈の相違でもありますが、実務上は、合意条項の工夫等も必要となろうかと思われ、条項整理の関係でも参考になると思われます。
【裁判・家族】公正証書遺言を遺言能力を欠き無効とした裁判例(東京高裁H25・8・28)
死亡6日前に作成された公正証書遺言の有効性が争われた事案で、東京高裁平成25年8月28日判決(判例タイムズ1419号173頁)は、公正証書遺言を無効としました(確定)。若干前の判決ですが、公正証書遺言が無効とされる事案として、実務上参考になると思われます。以下、判示内容を抜粋します。
「前記認定事実によれば、確かに、被相続人は、遺言する意思を有し、自己の遺産の配分等について、遅くとも平成22年1月ころより検討していたことが認められる。しかしながら、被相続人は、進行癌による疼痛緩和のため、同年2月末ごろから、慶應義塾大学病院より麻薬鎮痛薬を処方されるようになり、同年7月23日に同病院に入院した後は、せん妄状態と断定できるかどうかはともかく、上記の薬剤の影響と思われる傾眠傾向や精神症状が頻繁に見られるようになった。そして、本件遺言公正証書作成時の被相続人の状況も、公証人の問いかけ等に受動的に反応するだけであり、公証人の案文読み上げ中に目を閉じてしまったりしたほか、自分の年齢を間違えて言ったり、不動産を誰に与えるかについて答えられないなど、上記の症状と同様のものが見受けられた。加えて、本件遺言の内容は、平成22年1月時点での被相続人の考えに近いところ、被相続人は、同年7月に上記考えを大幅に変更しているにもかかわらず、何故、同年1月時点の考え方に沿った本件遺言をしたのかについて合理的な理由は見出しがたい。」「以上のような本件遺言公正証書作成時ころの被相続人の精神症状、同公正証書作成時の被相続人の態様及び合理的な理由がないにもかかわらず、被相続人の直近の意思と異なる本件遺言が作成されていることに鑑みると、被相続人は、本件遺言公正証書作成時に遺言能力を欠いていたと認めるのが相当である。」
【裁判・家族】被相続人の相続財産総額約1億4000万円の預金につき、生前や死後の縁故の程度に応じて、義理の姪に500万円、義理の従妹に2500万円を分与した裁判例(東京家裁H24・4・20)
相続人が不存在の場合には、被相続人と特別の関係にあった特別縁故者からの請求によって、その者らへ相続財産の分与がなされ得ますが(下記民法958条の3)、本件東京家裁平成24年4月20日(判例時報2275号106頁。確定)は、その具体的適用事例です。
特別縁故者の事例は、内縁の妻や事実上の養子の事例が多いと言われますが、本件は、義理の姪は3親等、義理の従妹は4親等になり、適用事例・基準として参考となるものと思われます。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
【裁判・家族】被相続人の祭祀財産(仏壇・墳墓)や遺骨について、二女とした家裁判断を高裁が長女に変更した裁判例(名古屋高裁H26・6・26)
名古屋高裁平成26年6月26日(判例時報2275号46頁)は、名古屋家裁が被相続人の死後の状況を重視し二女を祭祀財産等の承継者と判断したことに対し、被相続人との生前の関係を重視し長女を祭祀財産等の承継者としました(確定)。
祭祀承継者については、相続の一般ルールとは別に、民法897条で「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」(1項)、「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。」(2項)とされています。その判断基準としては、東京高裁平成18年4月19日決定(判例タイムズ1239号289頁)の「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情」を総合考慮するとの基準がリーディングケースと言われています。
本件は、家裁・高裁の判断が分かれたもので、上記リーディングケースのあてはめ例として、実務上参考になると思われます。
【裁判・家族】内縁の夫が交通事故で死亡した場合に、内縁の妻の配偶者としての扶養請求権侵害による損害・慰謝料損害を認めた裁判例(東京地裁H27・5・19)
約27年にわたり同居生活されていた事案です。東京地裁平成27年5月19日判決(判例時報2273号94頁)は、総額630万円超えの賠償請求を認めました(確定)。
内縁の配偶者については、最高裁平成5年4月6日(判例タイムズ832号73頁)において、「自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)七二条一項に定める政府の行う自動車損害賠償保障事業は、自動車の運行によって生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が同法三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、政府がその損害をてん補するものであるから、同法七二条一項にいう「被害者」とは、保有者に対して損害賠償の請求をすることができる者をいうと解すべきところ、内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求することができるものというべきであるから、内縁の配偶者は、同項にいう「被害者」に当たると解するのが相当である。」と判示されているとおりです。上記東京地判は、具体的適用・損害算定例として参考になるものと思われます。
【書籍・参考】「『子どもを殺してください』という親たち」(押川剛氏・新潮文庫)
ケース1で報告される案件は、代々いわゆるエリート・資産家の家系で、「業界屈指の法律事務所」を経営する弁護士夫婦の長男(統合失調症)が、受験の失敗・飼いネコ撲殺等々を経て務所生活を送らざるを得ない過程における家族の過酷な状況が報告されているなど、複数の実例が報告され、現在の日本の実態を知ることができます。書籍タイトルは刺激的ですが、内容は、子どもに「問題行動」が起きたときに、親に「おそらく、子供のことよりも優先していた『何か』があるはずです。」(274頁)など、問題解決の本質を探る視点が示されており、現代の法律問題への対応への示唆にも富んでいます。
【裁判・家族】婚約以前からの他の女性との関係継続を理由とする協議離婚後、かかる関係継続に基づく損害賠償請求が認められた裁判例(佐賀地裁H25・2・14)
内縁関係成立後の不貞行為に対しては損害賠償が認められてきましたが、本件は、婚約関係において、「婚約が成立したのであるから、正当な理由のない限り、将来結婚するという合意を誠実に履行すべき義務を負っている」として、婚約後も、他の女性と性的関係をもっていた等の事情から、「婚約中の不貞を理由として」損害賠償義務を負うと判示されました(判例時報2182号119頁)。
協議離婚後の損害賠償請求であること、実務上、男女間の関係での法的保護の範囲について相談を受けることが多いこと等から、参考までにアップします。
【裁判・家族】面会交流がなされない場合に、間接強制できる場合とできない場合の要件・条項の違いを示す判例(最高裁H25・3・28の3つの判断)
離婚等に伴い、子どもとの面会交流を定めることがありますが、この場合に面会交流が実現されなかった場合、義務者に対して間接強制(金銭の支払いを命ずること等)ができるか否かにつき、当初の面会交流の定め方(条項の内容)によって異なることが、3つの最高裁判例によって示されました。結論的には、面会交流の日時・場所・頻度・子の引き渡し方法等が定められ、義務内容が特定される必要があるとするものです。これまでは、子の引き渡し方法等は明確にしない定め方(それが事案の解決に相応しい面もありました)も少なくなかったかと思われ、今後の実務上、重要な判示であると思います。
間接強制ができるとした判例(最高裁平成25年3月28日(原審札幌高裁)・最高裁HP↓)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83152&hanreiKbn=02
間接強制ができないとした判例(最高裁平成25年3月28日(原審仙台高裁)・最高裁HP↓)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83153&hanreiKbn=02
間接強制ができないとした判例(最高裁平成25年3月28日(原審高松高裁)・最高裁HP↓)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83151&hanreiKbn=02
【民事・家族】内縁解消後の財産分与義務につき、相続されるとする裁判例(大阪高裁H23・11・15決定)
内縁解消後に、財産分与審判手続中に、財産分与義務者が死亡した事案につき、その義務者の相続人が財産分与義務を相続するか否かが問題となったものです。大阪高裁平成23年11月15日決定は、相続性を肯定しました(判例時報2154号75頁)。
反対の立場からは、内縁関係の死亡解消の考え方(最高裁平成12年3月10日決定・判例時報1716号60頁)からすれば、相続性を否定すべきとの主張がなされましたが、その最高裁決定とは事案が異なるとして、相続性が肯定されたものです。
内縁関係(社会的結合関係)の増加・多様化のなか、実務上、参考になる事案です。
【民事・家族】審判に基づく子どもの引き渡し(強制執行)は困難であるとしながら、監護権者を定めて子どもの引き渡しを命じることが相当とされた裁判例(東京高裁H24・6・6決定)
妻が子ども(9歳、5歳)と同居していたところ、夫が子どもを奪取した事案で、妻から子どもの引き渡し審判が申し立てられた事案です。子どもの意向等を踏まえ、夫のもとから強制的に子どもを引き離すことはできないとし強制執行が不能であるとことを認める一方、妻を監護権者と定めて夫に対し子どもの引き渡しを命じたものです(判例時報2152号44頁)。
法的問題点としては、強制執行が不能であれば、子どもの引き渡しを命じる意味はないのではないかという点にありますが、子の福祉の観点等から、上記決定を相当としています。親族関係を扱う家庭裁判所にはこうした紛争に踏み込んで解決案(判断)を示すことが求められていること、法的正義を示すこと、違法行為の放置を避けること等から意味ある判断と思われます。
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