弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・賃貸借】賃借人が契約当事者を変更したときは賃貸人が違約金を請求できるとする賃貸借契約について、賃借人側の会社分割を理由として賃借人側が違約金債務を負わないと主張することは信義則違反とする最高裁決定(H29・12・19)

    会社法の規定を形式的に重視した地裁判断を否定したものです(金融商事判例1537号8頁)。

    最高裁HPにも掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87338

    【裁判・賃貸借】建物(ビル)無断転貸の場合について、転貸人は賃借人に対し、共用部分を適切に維持管理し使用させる義務を負うとした裁判例(東京高裁H27・5・27)

    原審(東京地裁)は、転借人が無断転貸を知っていたこと等から転貸人の義務を限定的に判断しましたが、東京高裁平成27年5月27日判決(判例時報2319号24頁)は、無断転貸により転貸人が十分に義務履行できないリスクは、無断転貸を行っている転貸人が負うべきものとして、排水管の不具合等に関し義務違反を認め、690万円超の賠償を命じました(上告不受理)。

     

    無断転貸における転貸人の義務の範囲を検討するうえで参考になると思われます。

    【裁判・賃貸借】賃料保証会社による賃貸物件への補助鍵設置、家財撤去は不法行為を構成するとして、損害賠償(財産的損害、慰謝料)を認めた裁判例(東京地裁H28・4・13)

    東京地裁平成28年4月13日判決(判例時報2318号56頁)は、「本件補助鍵設置は、原告の住居たる本件物件への立ち入りを強制的に遮断する行為」「本件家財撤去行為は、刑事において窃盗罪又は器物損壊罪に処せられるべき行為」は「不法行為責任を免れない。」として、財産的損害として30万円、精神的損害として20万円、弁護士費用として5万円の合計55万円の損害賠償を認めました。

     

    実務上、被害救済に役立つ裁判例であり、同種事例は前記判例時報の解説にも多数掲載されています。

    【裁判・不動産賃貸借】駐車場賃貸借契約において、過去の浸水被害に関する賃貸人の説明義務違反が存したとして不法行為に基づく損害賠償を命じた裁判例(名古屋地裁H28・1・21)

    名古屋地裁平成28年1月21日判決(判例時報2304号83頁)は、「被告は消費者契約法にいう事業者に当たり、消費者契約である本件賃貸借契約の締結について勧誘するに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めるべき立場にあったこと(同法三条一項)等をも考慮すると、被告は、原告において当該事実を容易に認識することができた等の特段の事情がない限り、信義則上、原告に対し、本件駐車場が近い過去に集中豪雨のために浸水し、駐車されていた車両にも実際に被害が生じた事実を、原告又は仲介業者であるAに告知、説明する義務を負うというべきである。」として、集中豪雨を受け廃車処分となった自動車時価相当(116万5000円)と弁護士費用の損害賠償を認めました(控訴あり)。

     

    近時の災害状況も踏まえ、賃貸人の説明義務違反の事案として参考になると思われます。

    【裁判・民事】高裁において原審での訴訟上の和解を無効として、本案判決を行った裁判例(東京高裁H26・7・17)

    訴訟上の和解が無効とされたものでめずらしい事案です。

    賃貸借の立退事案で、原審において、被告(賃借人)が一貫して立退料340万円の支払いを求めるなか、証人尋問が予定されていた期日に裁判官が交替し、尋問前に長時間にわたり説得し、立退料220万円で訴訟上の和解が成立したとされたことについて、被告(賃借人)が和解無効を主張した事案です。

    『訴訟上の和解無効』といわれると和解時の裁判官に問題があったのではと感じられる向きもあるかもしれませんが、東京高裁において被告(賃借人)の立退料主張は「およそ考慮に値しない高額なもの」として、「立退料40万円」と判決されていることからすれば、和解時裁判官の実務的努力も十分にうかがえる感はあり、訴訟実務における理論と現実的解決との難しさや実務感覚を感じることのできるという点でも参考なるかと思われました。

    【裁判・民事】住宅賃貸借契約において、賃借人の延滞賃料等について、保証人の責任を限定した裁判例(東京高裁H25・4・24)

    東京高裁平成25年4月24日(判例タイムズ1412号142頁以下)は、賃貸人は一定時期以降は賃貸借契約を解除する等、損害拡大を防止し得たものとして、賃借人の責任範囲のうち、一定時期以降分を保証人に求めることは義則・権利濫用としました。

    同様の考えは、最高裁平成9年11月13日(判例タイムズ969号126頁)にも示されており、複数の下級審裁判例もありますが、東京高裁の判断でもあり、改めて実務上参考になるものと思われます。

    【裁判・賃貸借】新賃貸人(建物譲受人)による賃貸店舗(地下1階)外の、看板等(地上1階)の撤去請求につき、権利濫用として認めなかった判例(最高裁H25・4・9)

    最判平成25年4月9日(判例時報2187号27頁)は、建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が従前建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していたところ建物が譲渡された事案において、賃貸店舗と看板等が社会通念上一体のものとして利用されてきたという事実等に鑑み、建物譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは権利の濫用にあたると判断しました。東京高判は撤去等を認めていましたが、これを誤りとしたものです。

    判決文全文・事実関係は最高裁HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83174&hanreiKbn=02

    また、対抗力等の問題における参考判例として以下があります。

    ・ 借地権・権利濫用法理の保護を示すもの 最判昭和38年5月24日(民集17・5・639)

    ・ 一筆の土地にのみ登記建物あるケースで、他の一筆への土地の明け渡し請求が権利濫用とされたもの 最判平成9年7月1日(判例時報1614号63頁)

    実務上、重要な判断を示すものと思われます。

     

    賃料不払者(賃借人)に対する退去強制・動産処分行為が不法行為とされ精神的損害を含む金220万円の支払いが命ぜられた裁判例(東京地裁H24・3・9)

    家賃5万6000円のマンション賃貸借につき、賃借人が勤務先を解雇等されてしまったため、家賃支払いが滞ったところ、賃貸管理業者から、退去を強制され、家財等を廃棄処分されてしまったケースにつき、東京地裁は、賃貸管理業者に対し、財産的損害約70万円、慰謝料200万円の賠償を命じました(判時2148号79頁)。賃貸人・賃貸管理業者は、賃料不払いという契約違反があったとしても、どのような行為を行ってもよいわけではありません。しかし、現実には、自力執行というかたちで賃借人の正当な権利までもが侵害されるケースも少なくないなか、本判決は、賃貸人・賃貸管理業者のいわゆる「やり得」を許さず、法のルールに従った解決を求めるものと解され、意義ある判断で、賃貸借の実務上もとても参考になります。

     

    競売物件につき建物再築不可の場合に、配当受けた債権者に対する代金返還請求が認められた事例(名古屋高裁H23・2・17)

    担保権の実行としての不動産競売事件において、当該物件(土地・建物)を買い受けたところ、条例の規制により、当該物件(建物)の再築(取り壊して新しい建物の建築すること)ができなかった事案で、買受人から、不動産競売事件で配当を受けた債権者に対する配当金の一部返還請求を認めたものです。返還を認めた金額は金220万円のようで、当該規制がはじめからわかっていれば、金220万円ほど売却代金は低かったとの判断で、法的には、民法568条、566条を類推適用しています。上告・上告受理申立てがなされているようです。

    ・ 掲載紙 判例時報2145号42頁

    ・ 関連条文 

    民法568条(強制競売における担保責任)
    1項 強制競売における買受人は、第五百六十一条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。 
    2項 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
    3項 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
     
    民負う566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
    1項 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
    2項 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
    3項 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

     

    玄関ドアへの督促状貼り付け等の家賃取立行為につき不法行為の成立を認めた裁判例(大阪地裁H22・5・28)

    大阪地裁(H22・5・28。判時2089号112頁)は、家賃保証会社の従業員が、1ヶ月分の延滞事案につき、他の入居者からも見えるかたちで「督促状」「催告状」との張り紙をしたケースにつき、「他人に知られることを欲しないことが明らかな家賃等の支払状況というプライバシーに関する情報を不特定の人が知り得べき状態に置き、もってAの名誉を毀損するもの」として、家賃保証会社に対し、損害賠償を命じました(金6万5000円)。

    近時社会問題化している「追出屋」「家賃滞納情報のデータベース化」にも関わるものです。データベース化が行われているアメリカの(被害)実態について、専門誌ではありますが、三浦直樹弁護士「家賃滞納データベースとテナントスクリーニング」(消費者法ニュース85号69頁)がとても参考になります。