弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・行政】男性と同居した女性の生活保護停止につき、調査不十分として慰謝料支払いを命じた事例(津地裁H29・11・20)

    判例地方自治428号111頁の訴訟情報に要旨が掲載されています。

    判決において女性側にも虚偽説明の落ち度があった旨の指摘があったようですが、生活保護行政の現場における対処等のあり方に参考となる判断と思われます。

    【裁判・行政】関連事件において被告国等の指定代理人として活動していた者が、裁判官として基本事件の裁判所を構成したことについて、「裁判の公正を妨げるべき事情」があるとして、忌避を認めた事案(金沢地裁H28・3・31)

    いわゆる生活保護基準引下げ違憲処分等請求事件に関し、従前、国側代理人だったものが、いわゆる人事異動(法務省と裁判所の人事交流)で、途中から裁判官として当該事件に関与するようになった事案です。

    市民感覚からも弁護士実務的にも、当然、当該人物はその事件に裁判官として関わることはできないと思われ、結論としては、金沢地裁平成28年3月31日決定(判例時報2299号143頁)もその結論を採用しましたが、そもそも、本件のような紛争が生じること自体に司法の大きな根深い問題が存するものと思われます。

    【裁決・生活保護】労災保険560万円超に対する生活保護法63条に基づく費用返還処分を違法とし取り消した宮城県知事裁決(H28・7・6)

    宮城県知事は、平成28年7月6日、原処分が「(自立更生費の認定についての相談に対し)、その際処分庁の職員は、費用返還義務の免除はできない旨を回答し、それ以降も調査及び検討を行うことなく本件処分を決定」したこと、「当該補償年金の受給にあたっての経緯を一切考慮せず判断しことは、妥当とは言い難い」ことなどから、労災保険560万円超に対する法63条に基づく費用返還処分を違法とし取り消す裁決を行いました。

    審査請求申立てから裁決まで約8か月を要しましたが、結論として妥当な判断であり、生活保護実務上も参考になると思われます。また、生活保護法63条の返還要件の理解の参考として以下もご参考下さい。

     

    (参考)

    法63条の適用にあたって、厚生労働省は「費用返還額については、原則として当該資力を限度として支給した保護金員の全額を返還額とすべきであるが、こうした取扱いを行うことが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については、実施要領等に定める範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額と決定する取扱いとしてさしつかえないことしているので、ケースの実態を的確に把握し、場合によってはケース診断会議を活用した上で、必要な措置を講じる」(「生活保護行政を適正に運営するための手引きについて」平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)とし、また、「当該収入があったことを契機に世帯が保護から脱却する場合であっては、今後の生活設計等から判断して当該世帯の自立更生のために真に必要と保護の実施機関が認めた額。この場合、当該世帯に対してその趣旨を十分説明するとともに、短期間で再度保護を要することとならないよう必要な生活指導を徹底すること。」(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)とし、丁寧かつ詳細な聞き取り調査等を行った上で、自立助長の観点から返還額を決定するよう指示されている(便宜上、以下「実体要件」という。)。上記各通知は、当然、被保護者からの要望等を聞き取り、また、世帯全員を含む被保護者の生活実態を充分に調査・把握し、自立更生に必要な控除の検討を充分に行うことを前提かつ条件とするものであり、「返還額の決定は、担当職員の判断で安易に行うことなく、法第80条による返還免除決定の場合と同様に、そのような決定を適当とする事情を具体的かつ明確にした上で実施機関の意思決定として行うこと。」(問答集問13-5)とされ、これが存しない場合に全額返還を命じた原決定の取消しが報告されているとおりである(石川県知事裁決平成11年7月12日、兵庫県知事裁決平成18年3月1日。また、審査請求段階で福祉事務所が返還決定を自ら取り消した京都府知事裁決平成13年3月12日等。便宜上、以下「手続要件」という。)。

    【裁判・行政】生活保護受給者が引っ越しに伴い戸建住宅を売却し、引越しのうえマンションを購入したところ、引越先でマンション売却を指示され、これに従わず生活保護停止処分とされた事案につき、当該停止処分を違法と判断した裁判例(さいたま地裁H27・10・28)

    受給者は就労できない状態であり、もともと戸建住宅の保有は認められていたそうですが、交通事故に遭ったことなどもあり、約30年以上も通っている病院への通院も困難な状況になり、医師の意見もあり、病院近くに引越すために戸建を売却した事案です。戸建売却後、その代金を原資に、病院近くのマンションを購入したところ(担当の福祉事務所も変更)、福祉事務所からマンション売却を指示されてしまったものの、戸建売却の経緯からすれば、当該指示に問題があるとして売却に応じなかったところ、生活保護停止とされてしまったもので、当該停止処分の違法性を争ったものです。さいたま地裁平成27年10月28日(消費者法ニュース106号258頁)は、戸建住宅保有が認められていたこと、引越し理由の合理性、売却代金と購入代金とがほぼ一致していること等も踏まえ、福祉事務所のマンション売却指導が違法であり、よって保護停止処分も違法であるとして、停止処分を取り消しました。

    さいたま地裁の判断は、当然ともいえるものですが、現実には生活保護・福祉事務所の形式的判断で実務が運用されるなか、生活保護制度の趣旨に立ち返った裁判例として実務上も参考になると思われます。

    【裁判・行政】身体障害者につき自動車保有要件を満たさないことを理由として生活保護廃止とその後の申請却下した処分が、違法・取消され、また、国家賠償が命ぜられた事案(大阪地裁H25・4・19)

    大阪地裁平成25年4月19日判決(判例時報2226号3頁)は、結論として、当該申請者に対する自動車保有要件充足を認めたもので、生活保護の場面では自動車保有が問題とされることから、実務上参考となるものと思われます(確定しています)。

    もっとも、自動車保有にあたっては、①「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」という厚生省課長通知による原則保有不可の基準・運用の違憲性・違法性の問題と、②個々の場面における同通知の基準への該当性が問題とされますが、本件では①については違憲・違法とまでするものではありません。現在における自動車の普及状況からすると、今後、①も厳しく検討されるべきと思われます。

    【裁判・生活保護】行政からの破産者に対する費用返還請求(生活保護法63条)に対する弁済につき、破産手続上、有害・不当として、否認されるとした裁判例(千葉地裁平成25年11月27日)

    控訴されていますが、「(行政が)費用返還義務の履行を受けるに当たっては、一般債権者に優越する何らかの地位にあると解すべき法令上の根拠も認めることができない。」との判断が示されるなど、生活保護と破産手続・制度との関係性や実務的処理を行ううえで参考になるものと思われます。

    【裁判・生活保護】市の福祉事務所職員による生活保護申請の不受理、自粛勧告等の行為が違法とされ、市の国家賠償責任が認められた裁判例(さいたま地裁H25・2・20)

    さいたま地裁は、「生活保護実施機関の義務」につき、「生活保護実施機関は、生活保護の開始の申請があったときには保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、これを書面で申請者に通知する義務を負う(生保法24条1項。以下「審査・応答義務」という。)。また、後記(2)の申請行為が認められないときでも、相談者の申請権を侵害してはならないことは明らかであり、生活保護実施機関は、生活保護制度の説明を受けるため、あるいは、生活保護を受けることを希望して、又は、生活保護の申請をしようとして来所した相談者に対し、要保護性に該当しないことが明らかな場合等でない限り、相談者の受付ないし面接の際の具体的な言動、受付ないし面接により把握した相談者に係る生活状況等から、相談者に生活保護の申請の意思があることを知り、若しくは、具体的に推知し得たのに申請の意思を確認せず、又は、扶養義務者ないし親族から扶養・援助を受けるよう求めなければ申請を受け付けない、あるいは、生活保護を受けることができない等の誤解を与える発言をした結果、申請することができなかったときなど、故意又は過失により申請権を侵害する行為をした場合には、職務上の義務違反として、これによって生じた損害について賠償する責任が認められる。」として、市の対応の違法性を認定しました(判例時報2196号88頁。確定しています)。

     

    窓口規制の問題を指摘し、行政側に適正な対応を求めるもので、実務上も参考になると思われます。

    【参考・生活保護】日弁連パンフ「今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」(日弁連HP・全8頁)

    生活保護制度は、いわゆるセーフティネットの重要な制度です。近時、マスコミ等でも話題となり、制度への理解・議論が深まることは意味ある一方、誤解・心ない批判もおきています。パンフレットは、60年前との利用率比較では現在下がっていること、諸外国との比較、財政への影響の度合い等、分かりやすく記載されています。是非、一度ご覧下さい。

    パンフレットのページ↓。

    http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf

    新宿区ホームレス生活保護裁判・勝訴判決(日弁連HP、東京高裁H24・7・18)

    いわゆるホームレス状態にあった男性につき、行政(新宿区)の生活保護を認めない判断を取り消し、生活保護を認めたものです(第1審・東京地裁平成23年11月8日判決を維持したものです)。

    事案の概要、判決への評価等につき、日弁連から会長声明が出されています↓。

    http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120719_3.html

    生活保護は、不正受給等の問題が取り上げられがちですが、生存権確保の最後の砦・社会のセーフティネットとして、本来の法・制度の趣旨に従って、適用されるべき事案に1つの漏れもなくきちんと適用されているかが大きな問題です。

     

    生活保護打切処分の取消(宮城県の事例・地震保険の収入認定を誤りとするもの)(H24・3・5裁決)

    生活保護受給者が地震保険を受けた事案につき、厚生労働省によって被災者の義捐金等の収入認定(生活保護打ち切りにつながるもの)には慎重な対応を要するとされているのも関わらず(平成23年5月2日付け社援保発0502第2号厚生労働省社会・援護局保護課長通知など)、塩釜市がこうした対応を行わず、被災者の地震保険金を収入認定し生活保護打ち切り処分を行ったことは、誤った処分であるとして、平成23年3月5日、塩釜市の処分を取り消す裁決が出されました。

    内容的には当然の判断と思われますが、塩釜市の不十分・不当な取り扱いは多数報告されていますので、被災者救済に大きな参考となる裁決と思われます。

    なお、打ち切り処分の不当性・違法性は、不利益処分の理由開示を義務づける行政手続法第14条の観点からも、是正を求めることが考えられます。

    ※ 行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)

    ※ 参考判例

     

    最判昭和38年5月31日 

    必要な程度の記載を欠くものを、法の要件を満たしていないとするもの。

    最判昭和49年4月25日

    法令の適示のみでは足りず、具体的な事実の特定も必要とするもの。

    最判平成23年7月6日

    建築士免許取消を、法14条1項本文趣旨に照らし、違法とし取消したもの。