【裁判・刑事】死刑確定者とその弁護士が刑事施設の職員の立会いのない面会を申し出たにも関わらず、これを許さなかった刑事施設の長の措置を違法とし賠償を命じた裁判例(東京地裁H28・2・23)
東京地裁平成28年2月23日(判例時報2316号77頁)は、「死刑確定者又は代理人弁護士が処遇国賠訴訟に向けた打合せ(その準備の打合せ)をするために秘密面会の申出をした場合に、これを許さない刑事施設の長の措置は、秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するものとして、国賠法1条1項の適用上違法となる(ただし、代理人弁護士との関係では、国賠法1条1項の適用上違法となる余地はない。)と解するのが相当である。」として、当該事案について、被告国に損害賠償を命じました。
最高裁平成25年12月10日(民集67巻9号1761頁)を基礎にした判断として、参考になるものです。
【裁判・国賠】旧優生保護法国賠訴訟関係(河北新報特集、日経新聞提訴記事、日弁連意見書、仙台弁護士会会長)
【裁判・行政】農地法5条1項の許可を受けた者の造成工事により、隣接農地の排水障害が生じた事案につき、同許可処分が違法として国家賠償請求を認めた裁判例(広島高裁岡山支部H28・6・30)
行政法規の基づく権限行使によって損害を受けた者が国家賠償請求可能かとの論点があり、判例上、公務員が個別の国民に対して負担する義務に違反した場合には国賠法1条1項の「違法」を構成すると理解されているところ(最高裁昭和60年11月21日・民集39巻7号1512頁)、本件では、農地法5条2項4号の趣旨・理解が問題となったものです。原審は「違法」を構成しないとしましたが、広島高裁岡山支部平成28年6月30日判決(判例時報2319号40頁)は、隣接地所有者の法的利益も保護するものであるとして、国家賠償を認めたものです。
行政法規の解釈・適用の例として参考になると思われます。
※ 農地法5条2項4号
四 申請に係る農地を農地以外のものにすること又は申請に係る採草放牧地を採草放牧地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地又は採草放牧地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合
【裁判・建築】宅地造成事業により造成された道路・宅地の陥没につき、市の国賠法2条に基づく責任及び土地販売業者の説明義務違反が認められた事案(津地裁平成26年3月6日判決)
津地裁平成26年3月6日判決(判例時報2229号50頁)は、市は、当該道路には公の営造物たる道路して通常有すべき安全性を欠くものでありその管理に瑕疵があったとして、新たな土地購入代金・建築工事費用等の約2285万円を、土地販売業者には宅建業者として開発許可に付された許可条件の内容を説明せず本件土地が磨き砂の採掘跡地であることを説明しなかった義務違反があるとして、実質上の土地代金相当損害金として金645万円を、それぞれ賠償を命じたものです。
控訴されていますが、市の責任・業者の責任とも近時の裁判例の流れに沿うものとして、実務上も参考になるものと思われます。
【裁判・国賠】自転車運転中の男性(50代)が、防護柵なき用水路への転落し死亡した事故につき、県・市の賠償責任を認めた裁判例(福岡地裁平成25年4月10日)
本件は県・市の賠償責任を認めた例として参考になるものですが、自動車転落被害について国家賠償法2条の責任追及が多いといわれるなか、国家賠償法1条1項に基づく責任を認めた点でも参考になると思われます(判例時報2199号40頁。控訴あり)。
国家賠償法
1条1項 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2項 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
2条1項 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2項 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
【裁判・国賠】死刑囚の再審中の打合せ目的に対する、立会人なしの面会拒否につき、違法とした裁判例(広島地裁H25・1・30)
死刑確定者との面会については、刑事収容施設法121条に、職員に立ち会わせることを原則とするが、立ち会わせないことが相当と認めるときはこの限りではないとの規定があります。広島地判平成25年1月30日は「刑事施設長のこの裁量権も無制限なものではなく、刑事施設長の判断が合理的な根拠を欠き、著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法になるというべきである。」(判例時報2194号80頁)として、本件で裁量違反を認めたものです。死刑囚の再審という多くない場面での判断ではありますが、刑事被告人の権利は憲法上の人権であること等を改めて考えるべき事案としても、参考になると思われます。
大阪アスベスト訴訟・2陣国賠・勝訴判決(大阪地判H24・3・28)
アスベスト被害救済に取り組む被害者・弁護団による国の責任を求めた第二陣訴訟において、国の責任を認める勝訴判決が出されました(大阪地判H24・3・28。現時点では裁判所HP未掲載)。
アスベスト訴訟については、昨年、産業優先の不当判決(大阪高裁)が出されていますが、本判決は、その考え(産業優先)を否定する内容となっており、被害者・弁護団からも、評価できるとのコメントが出されています。
被害者・弁護団のコメントはこちらです↓。
http://www.asbestos-osaka1.sakura.ne.jp/120328%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%96%87.pdf
弁護団ホームページはこちらです↓。
http://www.asbestos-osaka1.sakura.ne.jp/
自衛隊のイラク派兵にかかる国民監視を違法とし国に賠償を命じたもの(仙台地裁H24・3・26判決)
昨日、判決が出されました。詳細は改めてご報告できればと思いますが、原告団・弁護団・支援する会の声明が出されていますので、取り急ぎ、全文アップさせていただきます。
自衛隊の国民監視差止・賠償請求訴訟判決に対する声明
1 本日、仙台地方裁判所は、自衛隊の国民監視差止・賠償請求訴訟につき、原告107名中、5名に対し、慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡しました。
2 2007年6月6日、陸上自衛隊情報保全隊の国民監視文書が公表されました。監視文書には、例えば、国民の地元スーパーでのコンサート、街頭でのアピール行為等の自衛隊イラク派兵反対運動など個人・団体の幅広い行動が、「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」「反自衛隊活動」として自衛隊によって監視され、個人名も含め、詳細に記載されていました。
私たちは、自衛隊によるこのような監視活動は、国民の思想信条の自由・プライバシー権はもとより平和的生存権を侵害する重大な違憲・違法な行為であるとして、人権保障の最後の砦である裁判所へ、司法救済(差止請求・損害賠償)を求め、2007年10月5日から6次にわたり、提訴しました。
3 判決は、「自己情報をコントロールする権利は実体法上の権利とは認められない」との被告の主張を排斥し、「自己の個人情報を正当な目的や必要性によらず収集あるいは保有されないという意味での自己の個人情報をコントロールする権利は、法的に保護に値する利益、すなわち人格権」として確立されていると宣言しました。その上で、自衛隊情報保全隊が、原告らがした活動等の状況等に加え、氏名、職業、所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集して保有したことを認定し、人格権侵害に基づく慰謝料の支払いを命じました。
4 この判決は、自衛隊が文書の存在すら認否しなかったにもかかわらず、「真の原本が存在し、かつ、これらが情報保全隊によって作成されたこと」を真正面から認めたものです。また、上記のように、自己の個人情報をコントロールする権利を人格権に位置づけて、自衛隊の情報保全隊の情報収集・保有行為を違法と判断した画期的判決です。
5 他方で、「個人情報を収集して保有したと認めるには足りず」として、他の原告の慰謝料請求は退けています。しかし、自衛隊情報保全隊から監視されること自体が大きな人権侵害であり、これを違憲・違法と宣言すべきでした。
また、判決は自衛隊情報保全隊の監視行為の差し止め請求については、特定性を欠くとして不当にも却下しました。監視による情報収集・保有行為が違法であることを認めながら、その差し止め請求を却下したことは一貫性に欠けるものと言わざるを得ません。
6 請求が認められた原告(被災者)の一人は、「震災時の自衛隊の活動に対し、感謝の気持ちで一杯です。しかし、国民を監視するようなまねはしないでほしい」と証言しました。私たちも同じ思いです。
私たちは、本判決で示された違法行為につき、自衛隊及び国(国会)に対し、なぜ自衛隊が本件監視行為という暴走行為に及んだのか、徹底した原因解明及び防止策を求めます。
2012年3月26日
自衛隊の国民監視差止訴訟原告団
自衛隊の国民監視差止訴訟弁護団
自衛隊の国民監視差止訴訟を支援するみやぎの会
検事が被疑者から弁護人との接見内容を聴取し証拠化したことを違法とし国家賠償責任を認めた裁判例(福岡高裁H23・7・1)
担当検事が、被疑者から弁護人との接見内容を聴取し、これを調書化し、証拠請求した事案につき、弁護人の秘密交通権(被疑者との接見・これの秘密が確保される権利)の侵害であるとして、係る行為には重大な過失が存するとして、検事の行為の違法性を認め、国に損害賠償を命じました(金55万円)。(判例時報2127号9頁)
秘密交通権は弁護人・被疑者の重要な権利であり、そうした理解は法律実務家に当然・共通の認識ですから、検察組織が上記取り調べ・証拠化を認容してきたことは、ひとり上記違法行為を実行した検事のみの問題にとどまらず、近時の検察不祥事と根底を同じくする根深い問題といえるでしょう。
警察の誤発表に基づく名誉毀損報道がなされた事案につき、国家賠償請求を認めた判決(松山地裁H22・4・14)
被害者が一方的に暴行・傷害を受け死亡したものの、警察が「喧嘩」「たいまん」などの発表を行い、これに基づく報道がなされたため、被害者遺族が被害者の名誉が毀損され、敬愛追慕の感情が侵害され精神的苦痛を被ったとして、慰謝料請求(国家賠償請求)を行っていた事案につき、松山地裁は、約11万円の賠償を認めました(判例時報2080号63頁)。
被害者側の名誉回復の観点から参考になる判断と思われます。
〒980-0812 仙台市青葉区片平一丁目2番38号 チサンマンション青葉通り605
TEL 022-713-7791 (平日9:00~17:30)
FAX 022-713-7792