弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・労働】廃業会社の元取締役らに対する損害賠償を命じた裁判例(鳥取地裁H28・2・19)

    ブライダル関連会社における給与・解雇予告手当の不払事案で、原告(労働者)側の請求を全面的に認めたものです(労働判例1147号83頁)。

     

    事実上の廃業事案において、会社法429条1項による救済を図ったものとして、参考になるものです。

     

    (役員等の第三者に対する損害賠償責任)

    第四百二十九条  役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

     次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

     取締役及び執行役 次に掲げる行為

     株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録

     計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

     虚偽の登記

     虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)

     会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

     監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

     会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

    (役員等の連帯責任)

    第四百三十条  役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

    【裁判・労働】労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の違反を認めた裁判例(ハマキョウレックス事件・大阪高裁H28・7・26、長澤運輸事件・東京地裁H28・5・13)

    労働契約法第20条は、(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)するものとして、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定するなか、同法違反を認定する判断として、ハマキョウレックス事件・大阪高裁平成28年7月26日判決(労働判例1143号5頁)、長澤運輸事件・東京地裁平成28年5月13日判決(判例時報2315号119頁)が出されています。いずれも、労働契約法第20条違反は私法上の効力(契約の無効、損害賠償の発生)を認める一方、労働基準法第13条のような契約内容を直接に律する補充的・直律的効力まで認めず、労働協約・就業規則・労働契約の合理的解釈を通じて同様の効果を図ろうとする考え方と理解されます。

     

    実務上、重要な判断であり、労働判例1148号5頁以下でも上記各裁判例の特集解説がなされています。

    【裁判・労働】海外赴任中の病死に対する労災保険不支給決定を取り消した裁判例(東京高裁H28・4・27)

    労災保険の適否について、「海外出張者」(適用有)か「海外派遣者」(適用無)かが争われた事案です。

    東京高裁平成28年4月28日判決(労働判例1146号46頁)は、「検討するに、前記のとおり、労災保険法の施行地内(国内)で行われる事業に使用される海外出張者か、それとも、同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって、国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続が必要である者かについては、単に労働の提供の場が海外にあるだけで、国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか、それとも、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から、当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、どのような労働関係にあるかによって、総合的に判断されるべきものである。」と述べ、事実認定のうえ、「以上認定の事実によると、亡Bについては、単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮命令に従い勤務する労働者である海外出張者に当たるというべきであり、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務する海外派遣者ではないというべきである。したがって、海外派遣者を対象とする特別加入手続がされていないことを理由に、亡Bを労災保険法上の保険給付の対象から除外することは相当ではない。」として不支給決定を是認した地裁判決及び不支給決定とそのものを取り消したものです(確定しています)。

     

    海外赴任がふえるなか労働者救済につながる判断と思われます。

    【裁判・労働】過重な長時間労働により労働者が精神障害を発症し自殺した事案において、出向元・出向先・両社の代表者の不法行為責任を認めた裁判例(東京地裁H28・3・16)

    出向形態においては出向元の責任範囲等が争われることも多く、また、出向形態に限らず代表者個人責任も争われることが多いなか、いずれの法的責任も肯定したものです(判例時報2314号129号。確定しています)。出向元・出向先の代表者が同一人であったという事情もあるとは思われますが、出向形態は、使用者側の便宜によることが殆どであり、その観点からは原則として出向元・出向先、さらには係る形態を選択・命じている両社の代表者も法的責任を問われて然るべきと思われ、労働者救済・保護に参考になる判断と思われます。

    【裁判・労働】定年後再雇用の条件提示について、改正高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨に反する違法なものとして、会社に損害賠償を命じた裁判例(名古屋高裁H28・9・28)

    名古屋高裁平成28年9月28日(労働判例1146号22頁)は、「改正高年法は、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方、従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。)、60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから、この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。そうすると、事業者においては、労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。」と規範を述べた上、本件について「被控訴人会社の提示した業務内容について見ると、控訴人に対して提示された業務内容は、シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く)、再生紙管理、業務用車掃除、清掃(フロアー内窓際棚、ロッカー等)というものであるところ、当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり、壁の拭き掃除やってて、見てて嬉しいかね。…これは、追い出し部屋だね。」などと述べているように、事務職としての業務内容ではなく、単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。上記の改正高年法の趣旨からすると、被控訴人会社は、控訴人に対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。そして、被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は、上記のとおり、控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり、地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように、全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。したがって、被控訴人会社の提示は、控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り、改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。」と判示し、会社に対し、パートタイマーとして1年間再雇用された場合に得られた賃金(賞与含む)相当額の金127万1500円の賠償を命じたものです(確定しています)。

     

    会社の裁量を画し、実質的違法行為に対する賠償を命じた点など労働者救済の面から、実務上参考になると思われます。

    【裁判・労働:行政】臨時的任用職員を約6年間にわたって2か月未満の期間で繰り返し雇用したことにつき、地方公務員法22条2項の趣旨に反する違法行為であるとして国家賠償請求を認めた裁判例(長崎地裁H28・3・29)

    判決文は、労働判例1138号5頁、判例地方自治412号67頁等に掲載されています(高裁で和解成立とのことです)。過酷な労働環境にある方々の救済その改善方向につながることがのぞまれます。

    地方公務員法22条2項は以下のとおりです。

     

    (条件付採用及び臨時的任用)

    第二十二条  臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、全て条件付のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会等は、条件付採用の期間を一年に至るまで延長することができる。

     人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、緊急の場合、臨時の職に関する場合又は採用候補者名簿(第二十一条の四第四項において読み替えて準用する第二十一条第一項に規定する昇任候補者名簿を含む。)がない場合においては、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、その任用は、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。

    【裁判・労働】神社の神職の労働者性を肯定し、宮司のパワハラを認め、損害賠償を命じた裁判例(福岡地裁H27・11・11)

    福岡地裁平成27年11月11日判決(判例時報2312号114頁)は、宮司の「ぶん殴りたい」「お前根性焼きしようか」「給料泥棒」「腐ったみかん」などとの発言を認定し、神社・宮司にパワハラに係る慰謝料100万円、弁護士費用10万円の賠償を命じました(その他、未払賃金の支払いも命じています)。

    【裁判・労働】業務途中の歓送迎会参加後に会社へ戻る途中の交通事故につき、一・二審は業務起因性を否定する一方、最高裁が業務起因性を認めた事案(最高裁H28・7・8)

    最高裁平成28年7月8日第二小法廷判決(労働判例1145号6頁。国・行橋労基署長(テイクロ九州)事件)は、「原審は、上記事実関係等の下において、本件歓送迎会は、中国人研修生との親睦を深めることを目的として、本件会社の従業員有志によって開催された私的な会合であり、Bがこれに中途から参加したことや本件歓送迎会に付随する送迎のためにBが任意に行った運転行為が事業主である本件会社の支配下にある状態でされたものとは認められないとして、本件事故によるBの死亡は、業務上の事由によるものとはいえないと判断した。」ことについて、「労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「災害」という。)が労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第182号同59年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事142号183頁参照)。」としたうえ、本件懇親会等について、「上記アの経過でBが途中参加した本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。」「また、Bは、本件資料の作成業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻る際、併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ、もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは、本件歓送迎会の開催に当たり、E部長により行われることが予定されていたものであり、本件工場と本件アパートの位置関係に照らし、本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、BがE部長に代わってこれを行ったことは、本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。」として原判決(1審含む)の判断を誤りとして、業務起因性を認めたものです。

     

    労働の現場を踏まえた労働者保護につながる判断と思われ、実務上も重要な判断です。

    【裁判・民事】従業員排除のための会社分割に加担した司法書士(複数)の共同不法行為責任を認めた裁判例(大阪高裁H27・12・11)

    大阪高裁平成27年12月11日判決(判例時報2300号)は、会社が団体交渉決裂後、当該労働組合の組合員(従業員)を会社から排除することを目的として行った会社分割とその後の事業閉鎖行為について、司法書士が会社分割等に専門的知識を有すること、会社と従業員との関係を認識していたこと、会社の真の目的を全く知らないまま関与したと考えることは不合理であること等から、会社側と司法書士の共謀を認定し、損害賠償を命じたものです(従業員1名あたり200万円前後の金額。上告・上告受理申立有)。

     

    違法行為への専門家関与の場合の法的責任や共謀の事実認定など実務上も参考になると思われます。

    【裁判・労働】債務整理等を取扱う法律事務所に雇用された元裁判所書記官に対する整理解雇を無効とした裁判例(東京地裁H27・9・18)

    東京地裁平成27年9月18日(判例時報2294号65頁)は、当該法律事務所が3年間で月額売上総利益が約7068万円から約3075万円と急減していること、約20億円の赤字があることなどから人員削減の必要性は肯定しながら、労働者の属性(元裁判所書記官としての知識・経験等)を考慮し解雇回避努力義務が十分であったとは認められないこと、選定理由の合理性に疑問があること、説明が不十分であること等から、法律事務所の解雇は、解雇権を濫用したものとして無効としました(控訴あり)。

    法律事務所の整理解雇というめずらしい事案であるとともに、労働者の属性を考慮し、個別具体的な対応を求めるものとして、労働者保護の観点からも参考になると思われます。