【裁判・労働】定年後再雇用の条件提示について、改正高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨に反する違法なものとして、会社に損害賠償を命じた裁判例(名古屋高裁H28・9・28)
名古屋高裁平成28年9月28日(労働判例1146号22頁)は、「改正高年法は、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方、従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。)、60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから、この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。そうすると、事業者においては、労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。」と規範を述べた上、本件について「被控訴人会社の提示した業務内容について見ると、控訴人に対して提示された業務内容は、シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く)、再生紙管理、業務用車掃除、清掃(フロアー内窓際棚、ロッカー等)というものであるところ、当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり、壁の拭き掃除やってて、見てて嬉しいかね。…これは、追い出し部屋だね。」などと述べているように、事務職としての業務内容ではなく、単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。上記の改正高年法の趣旨からすると、被控訴人会社は、控訴人に対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。そして、被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は、上記のとおり、控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり、地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように、全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。したがって、被控訴人会社の提示は、控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り、改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。」と判示し、会社に対し、パートタイマーとして1年間再雇用された場合に得られた賃金(賞与含む)相当額の金127万1500円の賠償を命じたものです(確定しています)。
会社の裁量を画し、実質的違法行為に対する賠償を命じた点など労働者救済の面から、実務上参考になると思われます。
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