弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・労働】就業規則に定められた賃金・退職金等の変更に対する同意の有無について、労働者の行為だけではなく、労働者への情報提供も含め実質的に自由意思の有無を判断すべきとする最高裁判例(H28・2・19)

    最高裁平成28年2月19日(最高裁HP)は、使用者による不利益変更の有効性を認めた東京高裁判決を破棄し、差し戻しました。『納得いかなくても働かざるを得ない』労働者の実態に考慮したもので、今後の実務にも大きな影響があると思われます。

    以下、抜粋です。全文は最高裁HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/681/085681_hanrei.pdf

     

    「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第1073号同48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁昭和63年(オ)第4号平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁等参照)。
    」「これを本件基準変更に対する管理職上告人らの同意の有無についてみると、本件基準変更は、A信用組合の経営破綻を回避するために行われた本件合併に際し、その職員に係る退職金の支給基準につき、旧規程の支給基準の一部を変更するものであり、管理職上告人らは、本件基準変更への同意が本件合併の実現のために必要である旨の説明を受けて、本件基準変更に同意する旨の記載のある本件同意書に署名押印をしたものである。そして、この署名押印に先立ち開催された職員説明会で各職員に配付された前記2(2)の同意書案には、被上告人の従前からの職員に係る支給基準と同一水準の退職金額を保障する旨が記載されていたのである。ところが、本件基準変更後の新規程の支給基準の内容は、退職金総額を従前の2分の1以下とする一方で、内枠方式については従前のとおりとして退職金総額から厚生年金給付額を控除し、更に企業年金還付額も控除するというものであって、前記2(8)のとおり、上告人らの退職時において平成16年合併前の在職期間に係る退職金として支給される退職金額が、その計算に自己都合退職の係数が用いられた結果、いずれも0円となったことに鑑みると、退職金額の計算に自己都合退職の係数が用いられる場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高いものであったということができ、また、内枠方式を採用していなかった被上告人の従前からの職員に係る支給基準との関係でも、上記の同意書案の記載と異なり、著しく均衡を欠く
    ものであったということができる。」

    【裁判・労働】社長らによる暴行、暴言および退職強要のパワハラ事案につき、労働者の自殺との因果関係を認め、死亡に係る損害賠償を命じた裁判例(名古屋地裁H26・1・15)

    仕事でミスをすると代表取締役らから「てめえ、何やってんだ」、「どうしてくれるんだ」、「ばかやろう」などと大声で怒鳴ったり、頭を叩いたりし、また、「会社を辞めたければ7000万円払え。払わないと辞めさせない。」などと言ってきた事案につき、かかるパワハラ行為と、労働者の急性ストレス反応・自殺との因果関係を肯定し、会社側に労働者死亡に係る損害の賠償を命じました(控訴後和解)。

    パワハラ行為と自殺(死亡)の因果関係を肯定した事案として、今後の被害予防・救済に参考となる事案です。

    【裁判・労働】信用金庫による組合委員長の昇進・昇格差別を救済する労働委員会命令が確定した事案(札幌地裁H26・5・16)

    いわゆる渡島信用金庫昇進昇格差別事件です。労働委員会によって、信用金庫側の行為は『不利益取扱いおよび支配介入』と認定されたにも関わらず、信用金庫側がその判断を不服として、提訴したものです。札幌地裁平成26年5月16日(労働判例1096号5頁)は、詳細な事実認定の上、信用金庫側の行為は「(労働組合)の弱体化を図ることにその目的があると推認する他はなく、(労働組合)を嫌悪した不利益取扱い及び支配加入であると認めるべきである。」と厳しく判示しました(確定しています)。

    継続労使関係における労働者救済の手法、不当労働行為(不利益取扱いおよび支配介入)の具体的判断事例として、参考になるものです。

    【裁判・労働】会社分割により従前の労働条件が維持されなかった事案につき、労働契約承継の各規定に鑑み、労働条件の維持を認め、会社側の対応の違法性を認めた裁判例(神戸地裁H26・4・22)

    阪神電気鉄道の従業員であって、排便・排尿が困難となる身体状況を有する労働者につき、従前、勤務システム上の配慮受けていたものの、会社分割後の阪神バスでの勤務では、係る配慮が得られなくなった事案につき、神戸地裁尼崎支部平成26年4月22日判決(労働判例1096号44頁)は、「阪神電鉄は、労働承継法の規定により、原告が希望しさえすれば、本件勤務配慮に係る合意を含む本件労働契約1がそのまま被告に承継され得るにもかかわらず、そのことを原告に認識させないまま、被告における就労を希望する原告に本件同意書を提出させて、勤務配慮に係る労働条件の不利益変更を伴う転籍に応じさせたことになる。」とし、「かかる同意は、労働契約承継法いよって保障された、本件労働契約1が被告にそのまま承継されるという原告の利益を一方的に奪う手続に基づいてされたものであり、かかる手続はまさに労働契約承継法の趣旨を潜脱するものというべきものであるから、上記同意による勤務配慮に係る労働条件の不利益変更は、公序良俗に反して無効と解するのが相当である。」と判示し、会社側の対応を違法とし、従前の労働条件の維持、損害賠償責任を認めました。

     

    控訴されていますが、会社分割における労働条件のあり方について、労働者保護の観点から参考となると思われます。

    【裁判・労働刑事】荷物搬送用のエレベーターがカゴ到着前にドアが開く故障状態を放置し、その結果、従業員が2階から落下し、エレベーターのカゴに足切断され失血死した労災事故につき、労働安全法違反・業務上過失致傷罪として有罪とされた事案(神戸地裁H25・4・11)

    判決文は裁判所HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/579/083579_hanrei.pdf


    本件エレベーターは、「本件エレベーターは、設置後数年が経過した頃から種々の不具合が出現し始めた。不具合が発覚した場合、被告人Cら、第3工場の従業員が被告人Bに報告し、必要に応じて修理を求めるなどしていた。被告人Bは、修理業者を呼んで修理を行わせたこともあったが、一部の不具合については放置し、十分な修理がされないまま利用が続けられていた。
    平成21年2月当時、例えば、1階の外扉については、東西(工場外側及び内側)の扉とも、搬器が1階にないのに開き、また、外扉が開いていても搬器が動く状態であった。2階の外扉についても、搬器が2階にないのに開く不具合が年に数回程度発生していた。2階の外扉についても、搬器が2階にないのに開く不具合が年に数回程度発生していた。」という状況にあったものです。

    その上で、本件事故は、「平成21年2月25日午後1時1分頃、第3工場2階の製造ラインで業務を行っていた従業員のF(以下「被害者」という。)は、段ボール詰めされた製品を1階に運び降ろすため、通常の作業手順どおり、段ボール箱15箱をパレットに載せた上、それをハンドリフトを使用して本件エレベーター2階出入口の前室付近まで運んだ。そのとき、本件エレベーターの搬器は1階に停止しており、本来であれば被害者が2階外扉を開けようとしてもドアロックが掛かるべきところ、何らかの理由でドアロックが機能せず、被害者によって本件エレベーターの2階外扉が開けられた。被害者は、搬器が2階に停止していないことに気付かないまま、ハンドリフトを押し込んだため、ハンドリフトは段ボール箱を載せたパレットごと昇降路内に突入した(以下、「本件突入事故」という。)。その後、具体的な経過は不明であるが、被害者は本件エレベーターの2階出入口から昇降路内に転落し、1階に停止していた搬器の天井板の上面に落下した。同日午後1時14分頃、被告人Cは、被害者が昇降路内に転落している事実に気付かず、本件エレベーターを作動させて搬器を1階から上昇させた。その結果、被害者は、搬器天井板の上面東側から落下し、上昇する搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれて左下腿部を離断して失血死するに至った(以下、本件突入事故後、被害者が昇降路内に転落し、さらに被告人Cが搬器を上昇させたことにより被害者が死亡するまでの経過全体を「本件事故」という。)。」との内容です。

    荷物搬送用エレベーターでの事故は多発しており、同種案件はもとより、労災事件において刑事責任を問われるケースが少ないなか、刑事責任を負うべき違法レベルの把握にも、参考になるものと思われます。

    【裁判・労働】精神疾患をかかえる市立中学の女性教員に対する、校長・教頭・教育委員会・教員センター対応・言動等がパワハラであり、精神疾患を憎悪させ自殺選択に至らせたとして国家賠償を認めた裁判例(鹿児島地裁H26・3・12)

    鹿児島地裁平成26年3月12日判決(判例時報2227号77頁)は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。この理は、地方公共団体とその設置する中学校に勤務する地方公務員との間においても同様に当てはまるものであって、地方公共団体が設置する中学校の校長は、自己が指揮監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である。」と述べた上、「前記第3・3において判示したとおり、平成17年以降の校長、教頭、県教育委員会、指導官及び本件担当指導官らの上記一連の各行為が亡Aに対して心理的な負荷の大きい影響を与えており、これが、亡Aの精神疾患を増悪させる危険性の高い行為であったと認めることができるから、亡Aはかかる行為の影響により、正常な判断ができない状態で自殺したものとみるのが相当であり、そうであるとすると、校長、被告県教育委員会、指導官及び本件担当指導官らの上記一連の各行為と亡Aの精神疾患の増悪及び自殺との間に相当因果関係があるとみるのが相当である。」とし、素因減額3割、過失相殺2割のうえ、加害者側に賠償を命じました。

     記判断、その基礎となる事実認定とともに同種被害の救済に参考となるものと思われます。(確定しています。)

    【裁判・労働】組合活動において中心的な役割を果たし、同人が存しなければ支部組合の存続の可能性が失われるとして、同人に対する配転命令を無効とした仮処分決定(東京地裁H26・2・28)

    東京地裁平成26年2月28日決定(労働判例1094号62頁)は、支部組合の活動を中心的に行っていた労働者に対する、会社の他の営業所への配転命令につき、「(会社は)少なくともJMIU東京測器支部の存続の可能性を失わせる結果になることを認識しつつこれを認容する意思があった」などと判示し、配転命令を支配介入(労働組合法7条3号)に該当し無効としました。

     決定は、その判示内容はもとより、仮処分手続(通常の裁判では時間がかかるので、通常の裁判に先だって裁判所の判断を得るもの)での救済例として、組合活動に対する妨害行為への対抗・救済手段として大いに参考になると思われます。

    【裁判・労働】エステティシャン業務に従事していた労働者の上肢障害について、労働基準監督署が労災該当性を否定した判断を取消し、労災該当性を認めた裁判例(東京地裁H26・1・27)

    東京地裁平成26年1月27日判決は、当該労働者の個別の業務量や業務実態等を踏まえ業務起因性を肯定しました(判例時報2221号107頁。確定)。

    エステティシャンという業務形態における事案としても参考になると思われます。

    【労働・参考】すき家(ゼンショー)に関する第三者委員会調査報告書

    マスコミ等でも報道されていますが、正式名称は『「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会による『調査報告書 平成26年7月31日』』で、ゼンショーのホームページから全文ダウンロードできます。

    http://www.zensho.co.jp/jp/news/company/2014/07/20140731.html

     

    第三者委員会については種々意味合いがありますが、本件は日弁連「『企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン』の策定にあたって」に準拠しているとのことで、同ガイドラインも日弁連のホームページじから全文ダウンロードできます。

    http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2010/100715_2.html


    ここ3年間で1572店舗から1986店舗と400店舗を超える新規出店がありながら、在籍社員は575名から561名に減少するなど、具体的な数字や現場労働者のアンケート結果が記載されており、本文は50頁程度ですので、その報告手法も含め、参考になろうかと思われます。

    【労働審判】タレントマネジメント会社の男性従業員に対し、育児休業後に行われた配置転換・退職勧奨・解雇につき、月額賃金12か月の解決金支払いの審判が行われた事案(東京地裁H26・4・11)

    妻も同じグループ会社に勤めており、保育所等もみつからず、やむなく育児休業をとらざるを得なかった事案とのことで、裁判所から、標記解決案(審判)が示されたものの、双方納得せず、訴訟継続中とのことです。民間企業における男性の育児休業取得率は平成23年度の時点で僅か2.63%と報告されており(男女共同参画白書)、根深い問題が存する状況とともに、裁判所の解決案(審判)に対し労働者側が納得しなかった点は、裁判所が本件問題の本質・労働者おかれた真の立場に十分にせまることができなかったのではないかとも思われます。

    (本件は労働判例1091号95頁にダイジェストが掲載されています。)