弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
  • HOME
  • >
  • カテゴリー: 労働
  • 【裁判・労働】過重業務でうつ病にり患し使用者に損害賠償を命じながら労働者が自己の状況を使用者に申告しなかったことを理由に過失相殺した高裁判決を破棄し、労働者が申告しなかったことを過失相殺の事情とはできないとした最高裁判例(平成26年3月24日)

    裁判所ホームページに掲載されています。

    高裁の判断は強く批判されるべきものであり、最高裁平成26年3月24日の結論が妥当なことはもとより、「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。」と判示される点など、労働者保護の観点からも重要な判例と思われます。

    【裁判・労働】期間の定めのある労働契約の期間途中での解雇につき、期間の定めのない場合に比して、より厳格な要件が必要であるとして、解雇無効とした裁判例(大阪地裁平成25年6月20日)

    労働契約法は、解雇規制につき、(1)期間の定めのない労働契約の場合には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(16条)とし、(2)期間の定めのある労働契約の場合には「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」(17条1項)として異なった表現・要件としていますが、大阪地裁平成25年6月20日(労働判例1085号87頁)は、(2)にいう「やむを得ない事由」とは、(1)より厳格なものとみるべきであり、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了せざるを得ないような特別の重大な事由と解されると判示しました。

    労働契約法17条に関する裁判例として参考になると思われます。

    【裁判・労働】ベビーシッターの家事使用人該当性を否定し、雇用契約上の地位確認・賃金支払請求を認めた裁判例(東京地裁平成25年9月11日)

    労働基準法116条2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定し、家事使用人を法の保護の対象から除外しています。この点、東京地裁平成25年9月11日(労働判例1085号60頁)は、「家事使用人であっても、本来的には労働者であることからすれば、この適用除外の範囲については、厳格に解するのが相当である。」と判示し、ベビーシッターの労働者性を認定し、地位確認・賃金支払請求を認めました。

    労働基準法116条2項に関する裁判例は多くはありませんが、労働基準法の趣旨を踏まえた判断事例として参考になると思われます。

    【裁判・労働】定年退職後の再任用選考における誤り等があり不合格決定は違法であるとして、国家賠償請求を認めた裁判例(福岡高裁平成25年9月27日)

    福岡高裁平成25年9月27日(判例時報2207号39頁)は、「本件選考審査は、従前の勤務評定等と面接審査を総合的に判断するというものであったが、被控訴人に関しては、面接審査に誤りや著しく不適切ないし不公正な記載があったから、公平、公正な面接審査をしたと認めることができない。県教委において、再任用の合否判断に広範な裁量権があるとしても、自ら選考審査手続を定めて実施した面接審査において、著しく不適切ないし公正を欠く評価がされた場合、これを判断基礎とすることが選考審査として許されないことは自明であり、裁量権を著しく逸脱するものである。仮に、このような面接審査を裁量権の範囲であるとした場合には、再任用を希望する者は、面接員による面接評価票の記載次第でいかなる結論をも受忍しなければならず、定年退職後の職業、収入が不安定になり、再任用制度の趣旨を損ねる。」「以上のとおり、本件不合格決定は、県教委の裁量権を著しく逸脱した違法なものであるから、被控訴人に対する不法行為となる。」と判示し、金270万円超えの賠償を命じました(判決は確定しています)。

     

    再任用場面における裁量逸脱の具体的判断事例として参考になると思われます。

    【裁判・労働】酒気帯び運転で検挙された市立中学校教師の懲戒免職処分が、裁量権逸脱で取り消された事案(東京高裁平成25年5月29日)

    本件は、飲酒後7時間の睡眠をとり、財布がなかったことから紛失届のため、自動車を運転し交番に行ったところ、「お酒の臭いがする」として検挙されてしまった事案です(判例時報2205号125頁)。1審(名古屋地裁平成24年11月30日)でも処分取消しとされたものです。判決で認定された事実からみれば、本件運転行為に強い違法性は認められないと思われ、そもそも、懲戒処分とすべきであったのか、控訴まで行う必要があったのか等も検討されるべきと思われます。

    【裁判・労働】市の課長の、職員間の交際についての言動が、職員の私生活に対する不当な介入であるとして、国家賠償法上違法とされ、市に対し賠償が命ぜられた事案(福岡高裁H25・7・30)

    福岡高裁平成25年7月30日判決(判例時報2201号69頁)は、市の課長が勤務中に部下に対し、「市営団地で抱き合ってキスしているとの市民からの通報があった」「入社して右も左も分からない若い子を捕まえて、だまして。お前は一度失敗しているから悪く言われるんだ。」「うわさになって、美人でもなくスタイルもよくないA女が結婚できなくなったらどうするんや。」「お前は何様のつもりだ」「お前が離婚したのは、元嫁の妹に手を出したからだろうが。」「一度失敗したやつが幸せになれると思うな。親子くらいの年の差があるのに常識を考えろ。俺が野に下ったら、お前なんか仕事がまともにできると思うなよ。」などと述べたことを認定した上、かかる言動は「誹謗中傷、名誉毀損あるいは私生活に対する不当な介入」として、国家賠償法上の違法性を認定しました(賠償額33万円。判決は確定しています)。

     

    国家賠償法上の違法性が認定されて然るべき言動と思われますが、1審では違法性の認定はなく(事実認定も異なるようです)、実務上、違法性の判断基準を把握する参考になると思われます。

    【裁判・労働】①解雇無効の場合に、使用者が労働者に対し、年金被保険者資格回復方法を具体的に説明しなかったことが債務不履行・不法行為を構成するとした裁判例(宮崎地判H21・9・28)②使用者の社会保険被保険者取得届出義務の懈怠につき労働契約上の債務不履行責任を認めた裁判例(奈良地判H18・9・5)

    少し前の裁判例ですが、解雇無効にともなう権利回復や労働者の基本的権利保護の点から、とても参考になると思われます。
    ①は別冊タイムズ№32・388頁、②は労働判例937号6頁に解説が掲載されています。

    ①、②とも制度的には労働者本人による代替的手段がなくはないですが、労働者が実際にその手段をとり得る可能性等も考慮し、使用者の義務違反を認めています。
    詳細は上記解説にあたっていただければと思いますが、とくに②が網羅的・詳しく書かれています。

    【裁判・労働】じん肺被害において、労働者が低額補償とともにその他の請求をしない旨の念書を提出していたケースにつき、そのような念書は死亡慰謝料まで放棄したとは解されず、

    本件はじん肺被害につき企業の責任を認める判決ですが、そのなかにおいて、労働者が低額補償とともにその他の請求をしない旨の念書を提出していた点について、
    低額な補償金額は死亡までも含んだものではないこと、使用者側の安全配慮義務違反、被害と補償の不均衡、作成経緯等から、
    そのような念書は死亡慰謝料まで放棄したとは解されず、或いは公序良俗で無効としたものです(横浜地裁横須賀支部平成25年2月18日・判例時報2192号73頁)。

    労働被害に限らず社会的に弱い立場にある当事者につき、形式的には請求権放棄の念書・合意書が存する事案も少なくありませんが、こうした場合であっても、
    実体面からの被害救済の途を確保するもので、実務上も大いに参考なると思われます。

    【裁判・労働】石綿・アスベスト作業に従事していた労働者の肺がん発症死亡の業務起因性を認めた裁判例(大阪高裁H25・2・12。労災不支給決定の取消)

    神戸労働基準監督基準署長の労災不支給決定を取り消した一審神戸地裁平成24年3月22日判決に対し、国側が控訴したことに対し、大阪高裁も、国側の控訴を棄却しました(判例時報2188号143頁)。

    大阪高裁は、国側が非難する「平成18年認定基準の定める要件」は相当であるとし、国側が主張する「平成19年認定基準」につき、国側はその医学的知見について何ら主張・立証していないという国側の無責任な訴訟態度も指摘しています。

    いずれにせよ高裁レベルの判断で確定しているとのことで、重要な意味を有するものと思われます。

     

    【裁判・労働】派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成立を認めた裁判例(山口地裁H25・3・13)

    山口地裁平成25年3月13日判決(労働判例1070号6頁・松田防府工場事件)は、いわゆるクーリング期間中は、派遣労働者をサポート社員として有期・直接雇用し、その後に再び派遣労働者として継続的に受け入れた後、再び派遣労働者として継続的に受け入れていた事案につき、結論として、派遣労働者と派遣元との間に、黙示の労働契約を認める重要な判断を示しました。詳細は判決文にあたっていただきたいのですが、最高裁平成21年12月18日判決(労働判例993号5頁、パナソニックプラズマディスプレイ事件)の判断にしたがったうえ、①クーリング期間経過後の派遣労働者の受け入れは本件においては派遣法40条の2等に鑑みても違法とされること、②派遣労働者と派遣元労働者との派遣労働契約も、本件では派遣法40条の2の潜脱が「組織的かつ大々的」であったとして上記最高裁判決にいう特段の事情あり、無効となること、③派遣労働者との派遣元との間では指揮命令、賃金の実質的決定権等から黙示の労働契約が成立すること、等の判断を示しています。

    大きな課題・問題ある労働者派遣法の枠組みの中で、法の趣旨(常用代替の禁止等)、労働実態等から、実態に基づき労働者救済のを図る理論構成を示すもので、実務上、重要な意義を有するものと思われます(控訴あり)。