弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・労働】無効な解雇により就労できなかった日を、年次有給休暇の算定基礎に入れるとした最高裁判例(平成25年6月6日)

    最判平成25年6月6日は、 労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日と労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定の方法につき、無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるとしました。
    通達(昭33・2・13基発90号、昭63・3・12基発150号)は、「含まれない」として労働者に不利益な理解をとってきましたが、最高裁は通達の理解は誤りであるとして労働者側の解釈を正当としたものです。50年にわたる不当通達を変更させた判断で、その意義は大きく、裁判に取り組まれてきた当事者・弁護団の方々の尽力のたまものと思われます。
     
     

    【裁判・労働】懲戒解雇の重大性を指摘し、普通解雇への転換も認めず、懲戒解雇を無効とした裁判例(東京地裁H24・11・30)

    モバイル通信事業を営む会社の労働者が懲戒解雇の無効等を争った事案です。東京地裁は、懲戒解雇は「極めて重大な制裁罰」「刑罰に類似する制裁罰としての性格を有すること」などを指摘し、「実質的な弁明を行う機会を付与したとはいい難」い、「懲戒解雇が無効である場合であっても普通解雇としての効力維持を容認することは、法的に許されないもの」と述べ、懲戒解雇を無効としました(労働判例1069号36頁)。

    懲戒解雇の労働者に与える重大な不利益を正しく述べ、その手続きや効果を示すもので、実務上も参考になる判断と思われます。

     

    【裁判・労働】非正規公務員の20回を超える再任用後の雇止めにつき、地方公共団体に対し、期待権侵害に基づく損害賠償(金150万円)を命じた裁判例(東京地裁H23・11・9)

    原告の方としては、市との間の地位確認等を求められており、この点が認められなかったのは、従前からの司法判断の壁である「公務の任用関係は任命権者の行政行為」という理屈によるものであり、この点は大変残念ですが、裁判所が次の判断を示し、市に金150万円の損害賠償を命じたのは、非正規公務員の権利実現にむけて大きな力となるものと思われます。控訴審で基本的維持され、双方上告なく確定したようです。

    東京地裁判決抜粋

    「原告の担当業務は、レセプト点検という継続性があり恒常的なものであるところ、上記認定事実、特に、原告が、21回という多数回にわたって繰り返し再任用され、任用継続期間の上限とされる5年をはるかに超える21年3か月の長期間にわたって被告のレセプト点検業務を継続して担当してきたこと、任用の当初、原告は、被告の担当者からは、勤務成績が良好であれば任用が継続されていくのではないかという趣旨の、原告にとっては長期勤務を期待させる説明を受けていたこと、原告は極めて高い評価を受ける職務成績を毎年積み上げていたこと、被告は、原告の再任用に当たり、毎年委嘱状を交付したものの、任用期間が1年であることを改めて説明することもなく、原告について本件要綱に定められた雇用継続期間の5年を超える任用が継続し、また原告もそのことを認識していた状況にあったのに、かかる状況を長期間いわば放置し、積極的な是正措置を取ってこなかったことなどに照らすと、原告が、上記期間中一貫して委嘱期間を1年とする委嘱状を交付され、その任用期間自体については認識していたと思われることや、平成3年には任用継続期間の上限が5年であることを認識し、遅くとも平成16年に誓約書を提出するころには、自分にも本件要綱の適用があることを認識していたことなどの事情を考慮しても、原告が再任用を期待することが無理からぬものと見られる行為を被告が行ったという特別の事情があると認めるのが相当である。」

    このように、原告の任用継続に対する期待は法的保護に値するものというべきところ、以上の認定事実に照らすと、被告は、平成21年1月になって、突然に次年度以降原告の再任用を拒絶する旨表明したといわざるを得ないものであって、本件再委嘱拒否により、上記期待を違法に侵害したものと解するのが相当である。」

     

    【裁判・労働】高年齢者等の雇用安定法の継続雇用制度対象者につき、同法の趣旨から、雇用関係存続を認めた最高裁判例(H24・11・29)

    最高裁は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条2項所定の継続雇用制度の対象となる高年齢者につき、同基準に基づく再雇用制度が導入されていた労使間において、再雇用の存否等が問題となった事案につき、「法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図ること等を目的とする(法1条)ものであるところ,法附則4条1項により
    平成22年4月1日から同25年3月31日までの期間において読み替えて適用される法9条1項は,64歳未満の定年の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者の64歳までの安定した雇用を確保するため,当該定年の引上げ,継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入又は当該定年の定めの廃止のいずれかをしなければならない旨を定め,同条2項は,事業主が,当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において,労働者の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用基準を定めて当該基準に基づく制度を導入したときは,継続雇
    用制度の導入をしたものとみなす旨を定めている。」と述べ、係る法の趣旨から、雇用継続を認めました。

    高齢者等の雇用安定法の趣旨を明らかにし、雇用継続を図るもので、実務上も参考になる判示と思われます。

    判決文・裁判所HP↓

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82762&hanreiKbn=02

    【労働・裁判例】会社の定める休日4日間を、休日から削除する就業規則が労働条件の不利益変更・無効とされた事案(東京地裁H24・3・21判決)

    法定の休日以外に、各会社毎に休日が定められていることも少なくないですが、本件は、就業規則の変更により、会社の定めていた休日が廃止されて通常の労働日とされた事案です。東京地裁H24・3・21判決は、「従前から既得権として被告従業員の労働条件の一部となっていたものであるといえるところ、本件就業規則変更により、これらの本件会社休日が廃止されて通常の労働日とされ、原告らの年間所定労働時間が増加し、賃金カットと同様の効果が生じているのであるから、本件就業規則変更には原告らの重要な労働条件を不利益に変更する部分を含むことは明らかである。」と判示し、不利益変更該当性を認め、結論として、「原告らは本件会社休日を休日として行使することができる。」と判示しました(労働判例1051号71頁)。

    近時の経済不況下において出勤日の変更等が行われることもありますが、使用者側の経営事情のみで労働者へ不利益を与えることをできないことを示すもので、実務上も参考になると思われます。

     

    【法改正・労働】 労働契約法・労働者派遣法の改正について(厚生労働省HPなど)

    1 労働契約法の改正

     8月10日交付されています。雇止法理の法文化は即日施行、その他は1年内の施行とのことです。従前の労働基準法すら守られていない現実もあり、実効性確保の方策こそが検討・強化されるべき課題です。

    厚生労働省の全体的なページ↓ 

    http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/

    通達~改正の全体像が示されています↓

    http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240810-02.pdf

    通達別添~参考裁判例が示されています↓

    http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/saibanrei.pdf

    2 労働者派遣法の改正

     10月1日から施行とのことです。不十分な内容であるばかりか、「派遣」という働き方を固定化する危険性を有しています。「派遣」の導入にあたって「多様な働き方」のキャンペーンがはられましたが、新卒で積極的に「派遣」を希望・選択する学生など殆どいなかったはずです。 法制度のフォローは大切ですが、「安心して働ける」長期雇用システムへの運動も重要です。

    厚生労働省の全体的なページ↓ 

    http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/

    厚生労働省の改正ポイントを示したページ↓

    http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/01.html

    【労働】採用面接にあたり、告知すれば採用されないと予測される事項について、自発的告知義務は存しないとする裁判例(東京地裁H24・1・27)

    事案は、大学の教授である原告が、勤務先大学に対し、以前の勤務先において、パワーハラ及びセクハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことなどを理由に、解職(普通解雇)されたものです。

    東京地裁は、解職無効として地位確認・給与支払いを認め、この点も重要ですが、判示のなかで、次のように述べており、実務上も、重要な判断と思われます(労働判例1047号5頁)。

    採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は、公人であって、豊かな人間性や品行方正さも求められ、社会の厳しい批判に耐え得る高度の適格性が求められるとの被告の主張は首肯できるところではあるが、採用の時点で、応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。それが大学教授の採用であっても、本件のように、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について,告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない。」

     

    学校法人の塾長(校長)の解職(解雇)が労働契約法17条1項に反し無効とされた裁判例(仙台高裁秋田支部H24・1・25)

    学校法人の塾長(校長)が解職(解雇)されたことから、塾長(校長)が解雇無効・地位確認等を求めた事案につき、仙台高裁秋田支部は、本件解職処分は労働契約法17条1項による無効である旨判示しました(労働判例1046号22頁)。

    労働契約法17条(↓)の適用事例として参考になると思われます。判決は確定しています。

    労働契約法17条

    1 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

    2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

    精神的な不調を抱える労働者の無断欠勤を理由とする解雇を無効とした判例(最高裁H24・4・27)

    いわゆる日本ヒューレット・パッカード事件の最高裁判決です。使用者側に一定の対応を求めるものであり、実務上参考になる判例です。最高裁HPにアップされています。まずは速報的ですが、ご報告致します。

    最高裁HP↓

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82225&hanreiKbn=02

    取引先・同僚との飲食接待につき業務性を認めた裁判例(大阪地判H23・10・26 ノキア・ジャパン事件)

    くも膜下出血で死亡した労災事案につき、業務起因性を否定した行政認定を取り消し、業務起因性(労災該当性)を認めたものです(労働判例1043号67頁)。

    接待等の業務性について、次のような考えた方を示しており、今後の被害救済に参考になるものと思われます。

    ※ 判決一部抜粋

    「一般的には、接待について、業務との関連性が不明であることが多く,直ちに業務性を肯定することは困難である。」としつつ、「①顧客との良好な関係を築く手段として行われており、本件会社もその必要性から、その業務性を承認して亡Aの数量に任せて行わせていたこと(乙3の92頁)、②本件会社が協力会社にFの取引を獲得ないし維持するため、工期の短い工事等の無理な対応をお願いする立場であったため、日本エレクトロニクスシステムズ,NEC,コミューチュア,サンワコムシス等の協力会社に対してその必要性があったこと、③亡Aが前職当時から付き合いのある人脈を利用して営業の情報を収集したり、根回しをし、そのために顧客とコミュニケーションをとることによって問題の解決に当たっていたこと(乙9の①)、④亡Aが大阪事務所長として必要と判断したものであって,本件会社にとって有益で,必要な業務の一部であったこと、⑤亡Aの後任であるEもその職責を全うするため重要であると認識していたこと・・・」等の事実から、「以上の事実を踏まえると,亡AがFの関係者等との飲食は、そのほとんどの部分が業務の延長であったと推認でき、同認定を覆すに足りる証拠はない。」と判示しました。