弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・民事】重度知的障害者の逸失利益につき賃金センサス・男女計・学歴計を用いて把握した裁判例(東京地裁H31・3・22)
  • 【裁判・民事】重度知的障害者の逸失利益につき賃金センサス・男女計・学歴計を用いて把握した裁判例(東京地裁H31・3・22)

    労働判例1206号15頁に掲載されています(確定)。

    被害者の方は施設入所中に事故死されたもので労働者ではないですが、労働判例に敬されており、その解説でも「本判決におけるKは労働者ではないが、障害者雇用における判示内容の重要性に鑑み掲載している」と述べられるとおりです。

     

    裁判所の考え方が示されている判示部分、下記抜粋します。

    障害者の雇用に関係する法令のうち、特に障害者の一般就労について中心的な位置を占める法律というべき「障害者の雇用の促進等に関する法律」(法)に着目すると、法は、今日までに数次の改正を経た上、障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられることを基本的理念とし(3条)、障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない(4条)一方、全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならず(5条)、国及び地方公共団体も、障害者の雇用について事業主その他国民一般の理解を高めるとともに、事業主、障害者その他の関係者に対する援助の措置及び障害者の特性に配慮した職業リハビリテーションの措置を講ずる等障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るために必要な施策を、障害者の福祉に関する施策との有機的な連携を図りつつ総合的かつ効果的に推進するように努めなければならない(6条)と定め、厚生労働大臣に障害者雇用対策基本方針の策定を命じている(7条)。そして、法は、障害者がその能力に適合する職業に就くこと(1条)を促進する措置として職業リハビリテーションの推進(8条ないし33条)を、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置として障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮(34条ないし36条の6)を、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置として雇用義務制度(37条ないし74条の3)を、更に、これらの制度の実効性を高めるために、裁判によらない紛争解決制度を定めている(74条の4ないし74条の8)。なお、法7条に基づき策定された「障害者雇用対策基本方針」は、職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項、事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項を具体的に定め、また、差別禁止に関しては、法36条1項に基づき、事業主が適切に対処するために必要な指針として「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」が、合理的配慮に関しては、法36条の5第1項に基づき、事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針として「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」が定められるに至った。以上のような法の定めが、知的障害者を含む障害者の一般企業への就労を積極的に推進していく大きな要因となることはいうまでもない。そして、実際の社会においても、特例子会社(法44条)の中には、単に雇用義務を履行するためという観点ではなく、知的障害者を含む障害者の有する能力を自社の事業ないし業務に活用して企業利益の創出や企業価値の向上につなげようとする観点から、障害者雇用を積極的に推進している企業も見られるなど(甲号証、証人K、知的障害者雇用に関連する社会の情勢も漸進的にではあるが改善されていく兆しがうかがわれる。このような事情に照らせば、我が国における障害者雇用施策は正に大きな転換期を迎えようとしているのであって、知的障害者の一般就労がいまだ十分でない現状にある(乙7ないし乙19、乙23)としても、かかる現状のみに捕らわれて、知的障害者の一般企業における就労の蓋然性を直ちに否定することは相当ではなく、あくまでも個々の知的障害者の有する稼働能力(潜在的な稼働能力を含む。)の有無、程度を具体的に検討した上で、その一般就労の蓋然性の有無、程度を判断するのが相当である。