【裁判・民事】事後に債務者が反社会的勢力であったことが判明しても信用保証協会の保証を有効とされる場合を示した最高裁判例(H28・1・12)
最高裁は平成28年1月12日、信用保証協会が事後に債務者が反社会的勢力であったことが判明したことから保証契約の無効を主張していた事案で、信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し、金融機関において融資を実行したが、その後、主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁昭和35年(オ)第507号同37年12月25日第三小法廷判決・裁判集民事63号953頁、最高裁昭和63年(オ)第385号平成元年9月14日第一小法廷判決・裁判集民事157号555頁参照)。」との規範を示しました。
同種事案について4件判断が示され、1件は「破棄自判」(結論として保証有効)、3件は「破棄差戻」(高裁での事実審理継続)とするものです。
4件とも最高裁HPに掲載されています。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/list2?page=1&filter[recent]=true
「破棄自判」の上記規範へのあてはめが、実務上、有効・無効の振り分けを示唆していると思われ、以下、長いですが引用します。
「本件についてこれをみると、前記事実関係によれば、上告人及び被上告人は、本件各保証契約の締結当時、本件指針等により、反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負っており、本件各保証契約の締結前にAが反社会的勢力である暴力団員であることが判明していた場合には、これらが締結されることはなかったと考えられる。しかし、保証契約は、主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない。そして、上告人は融資を、被上告人は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、その場合に被上告人が保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず、本件基本契約及び本件各保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると、主債務者が反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを上告人及び被上告人の双方が前提としていたとはいえない。また、保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、既に上記主債務者が融資金を取得している以上、上記社会的責任の見地から、債権者と保証人において、できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の解消を図るべきであるとはいえても、両者間の保証契約について、主債務者が反社会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にその効力が否定されるべきものともいえない。そうすると、Aが反社会的勢力でないことという被上告人の動機は、それが明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず、被上告人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。」
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