弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・行政】20歳前に初診日のある精神遅滞による精神障害の判断につき、障害の状態が問題とされる当時の診断書でなくても可能であるとする裁判例(東京地裁H25・11・8)

    争点は、原告が20歳に達した本件基準日当時、精神遅滞により障害等級二級に該当するか否かで、条文上、国民年金法施行規則31条2項4号の「障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書」の解釈が問題となったものです。東京地裁平成25年11月8日(判例時報2228号14頁)は、ここにいう「診断書」は原則的には障害問題とされる当時の実際に診療した医師によるものと理解されるが、そうでない医師によって作成されたものでも、そのこと故に「診断書」に該当しないとすることは相当ではなく、他の事情も含め総合的に判断すべきとして、本件事案でも「診断書」該当性を認め、社会保険庁の判断を取り消したものです(確定しています)。

     害基礎年金等における障害認定にあたって、行政側の判断よりも許容範囲を広げるもので、実務上も参考になるものと思われます。

    【裁判・行政】道路法による市道認定なき土地(法定外公共財産)につき、公物であることから取得時効を認めなかった裁判例(東京高裁H26・5・28)

    公物に対する時効取得は、原則認められないとされ、長年公共の用に供されなかったなど公用廃止がなされたと評価できる場合に限って私人による時効取得が認められるとされてきました(最高裁昭和51年12月24日判決・判例時報840号55頁)。東京高裁平成26年5月28日判決(判例時報2227号37頁)も、その最高裁判例に反するものではありませんが、最高裁判例後の数少ない事案として参考になると思われます。(上告等がなされています。)

    【裁判・行政】身体障害者につき自動車保有要件を満たさないことを理由として生活保護廃止とその後の申請却下した処分が、違法・取消され、また、国家賠償が命ぜられた事案(大阪地裁H25・4・19)

    大阪地裁平成25年4月19日判決(判例時報2226号3頁)は、結論として、当該申請者に対する自動車保有要件充足を認めたもので、生活保護の場面では自動車保有が問題とされることから、実務上参考となるものと思われます(確定しています)。

    もっとも、自動車保有にあたっては、①「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」という厚生省課長通知による原則保有不可の基準・運用の違憲性・違法性の問題と、②個々の場面における同通知の基準への該当性が問題とされますが、本件では①については違憲・違法とまでするものではありません。現在における自動車の普及状況からすると、今後、①も厳しく検討されるべきと思われます。

    【裁判・行政】市長の専決処分による補助金支出の債務負担行為が違法であるとする裁判例(東京高裁H25・8・29)

    専決処分とは、本来議会が決すべき事項(地方自治法96条)につき、議会が成立しない場合などに自治体の長に専決処分を行うことを認めているものです(地方自治法179条)。

    本件は、A市長が専決処分として、特定の鉄道会社への補助金2300万円余を支出した行為が違法とされ、現在の市長からA市長に対し同金額の賠償請求を行うことを命じたものです(東京高裁平成25年8月29日判決・判例地方自治384号10頁)。いわゆる住民訴訟として一般の判決主文とは若干異なる言い回しですが、議会制民主主義の観点等から、専決処分をなしうるケースを限定するもので、近時、専決処分に関する裁判例が多数出されていることからも(裁判例の動向については、判例地方自治384号4頁以下「専決処分をめぐり相次ぐ判決、自治体に戸惑いも?-専決処分が違法とされた事例と適法とされた事例―」にまとめられています。

    【法情報】行政不服審査法の全面改正(平成26年6月改正、施行は平成27年4月1日から)

    弁護士の業界誌ですが「自由と正義」の最新号(8月号)の特集にもなっています。そのなかの松澤陽明弁護士による論稿「行政不服審査法の改正の意義とその限界」により、改正内容・意義と背景・今後の課題等を分かりやすく解説されています(自由と正義9頁以下)。

    また、公金検査請求制度の提言もなされています(自由と正義16頁以下)。

     

    松澤論稿で概要把握に分かりやすいと指摘されている総務省HPは下記です。

    http://www.soumu.go.jp/main_content/000279329.pdf

    【裁判・行政】平成20年2月の北海道での暴風雪により、雪の吹きだまりで立ち往生して自動車内で死亡した事案につき、北海道・道路管理業務業者の賠償責任を認めた裁判例(札幌地裁H26・3・27)

    概要・全文は裁判所ホームページに掲載されています。

    裁判所HP

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=84136&hanreiKbn=04

     

    近時、暴風雪や急激な気候の変化による、道路上での被害事案が多発するようになっており、参考になる裁判例と思われます。

    【裁判・年金】遺族補償年金等の受給資格につき、男女の別により支給要件が異なる規定を憲法14条に違反・無効として、夫への不支給決定を取り消した裁判例(大阪地裁H25・11・25)

    大阪地裁平成25年11月25日(労働判例1088号32頁、判例時報2216号122頁)は、地公法32条1項ただし書きが、遺族補償年金の受給要件として、配偶者のうち夫についてのみ年齢要件を付加している点につき、種々検討を重ね、「地公災法の立法当時、遺族補償年金の受給権者の範囲を画するに当たって採用された本件区別は、女性が男性と同様に就業することが相当困難であるため一般的な家庭モデルが専業主婦世帯であった立法当時には、一定の合理性を有していたといえるものの、女性の社会進出が進み、男性と比べれば依然不利な状況にあるとはいうものの、相応の就業の機会を得ることができるようになった結果、専業主婦世帯の数と共働き世帯の数が逆転し、共働き世帯が一般的な家庭モデルとなっている今日においては、配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱いはもはや立法目的との間に合理的関連性を有しないというべきであり、原告のその余の主張について判断するまでもなく、遺族補償年金の第一順位の受給権者である配偶者のうち、夫についてのみ60歳以上(当分の間55歳以上)との本件年齢要件を定める地公災法32条1項ただし書及び同法附則7条の2第2項の規定は、憲法14条1項に違反する不合理な差別的取扱いとして違憲・無効であるといわざるを得ない。」と判示しました。

     

    本件は控訴されていますが、個別具体的な事案における不合理な理論・結論を救済する意義ある判示と思われます。

    【裁判・生活保護】行政からの破産者に対する費用返還請求(生活保護法63条)に対する弁済につき、破産手続上、有害・不当として、否認されるとした裁判例(千葉地裁平成25年11月27日)

    控訴されていますが、「(行政が)費用返還義務の履行を受けるに当たっては、一般債権者に優越する何らかの地位にあると解すべき法令上の根拠も認めることができない。」との判断が示されるなど、生活保護と破産手続・制度との関係性や実務的処理を行ううえで参考になるものと思われます。

    【裁判・行政】選挙管理委員会の月額報酬を定める条例の規定が、殆ど職務遂行しなかった者に対しても一律全額支給となっている限りにおいて無効であるとされた事案(東京地裁H25・10・16)

    いわゆる非常勤行政委員の月額報酬問題については、業務実態にあわない高額報酬などが問題となり多数の住民訴訟が提起され違法判断が占めされてきましたが、最高裁平成23年12月15日判決(判例時報2162号45頁)後は住民側の主張・請求を結論としては認めない判断が続きましたが、東京地裁平成25年10月16日(判例時報2218号10頁)は、前記最高裁の規範を前提に、「前記アに述べたところに照らし、杉並区選挙管理委員の報酬の支給の在り方として月額報酬制を採用した本件条例の規定が直ちに地方自治法203条の2第2項の規定に違反するとはいえないとしても、同項の規定は、その本文に規定する内容から明らかなとおり、非常勤職員の報酬について、いわゆる生活給としての要素を含まず、飽くまで職務の遂行への対価として支給されるものであることを前提とするものと解されるところ、本件条例4条2号は、月額報酬は、これを受ける者に対し、その月の25日から末日までに支給する旨を定めており、これを含む本件条例の規定によれば、杉並区選挙管理委員がその職にあった特定の月の全て又はその大部分の日において疾病等のために職務を遂行することができなかった場合にも、当該月分として月額をもって定められた報酬の全額が支給されることになるのであって、本件にみられるように、上記のような場合を含め、その勤務の態様等を格別考慮することなく、一律に上記のように報酬の支給をするものとすることについては、その全額が当然に職務の遂行への対価として支給されるものと解することは困難であり、A元委員について、本件全証拠をもっても、これと異なって解すべき事情は格別認められない。」「以上に述べたところによれば、杉並区選挙管理委員に対する月額報酬の支給を本件条例の上記の規定によるものとすることについては、本件期間中のA元委員におけるような場合を含めて一律に月額報酬の全額を支給するものとする限りにおいて、地方自治法203条の2第2項の規定の趣旨に照らした合理性の観点から議会の裁量権の範囲を超えるものとして、同規定に違反し、無効であるというのが相当である。」と判断し、金140万円ほど(月額報酬24万2000円の6か月分)の返還を命じました。

     

    本件は控訴されているようですが、前記最高裁判決後も、非常勤行政委員の月額報酬問題は、看過されるべき問題ではないことを明らかするもので、重要な意義を有するものと思われます。

     

     

     

    【裁判・行政】運転中の携帯使用で交通反則・ゴールド免許はく奪につき、使用を否定しているにも関わらず、携帯履歴の確認・調査もしなかったことから、処分取り消し等を認めた裁判例(東京高裁平成25年8月28日)

    ダイジェスト版のみしか確認できていませんが(判例地方自治377号120頁に掲載あり)、運転者は警察官に「耳かきしながら運転していたこと」「携帯履歴を確認するよう促したこと」等の事情がありながら、警察官は携帯履歴の確認・調査をしなかったというもので、警察官の捜査報告書や陳述書の信用性を否定し、反則処分取り消し・ゴールド免許交付を認めたものと報告されており、反則事案の処理の参考になると思われます。