弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【時事雑感】仙台市地下鉄東西線の需要予測と現実の大きなずれ~事業許可時は1日8万人ではなく11万9000人でしたから、これに基づけば予測の42%に過ぎないこと

    2015年12月6日開業の仙台市地下鉄東西線は、2016年1月6日の河北新報によれば「1日平均5万400人と需要予測8万人の63%にとどまり。苦戦傾向がうかがえた」(1面記事)、佐藤清交通事業管理者のコメントとして「100点満点で41点。何とか赤点を免れた感じだ。」(3面記事)とあります。

    しかしながら、仙台市は事業許可時には需要予測は1日11万9000人と述べ(なお、それ以前には1日13万人とも述べていました)、裁判所(仙台地裁平成18年3月30日判決)でも1日11万9000人の実現を前提に費用便益比は「1.09」とされていました。

    したがって、1日11万9000人の需要予測に基づけば、1日平均5万4000人となっていることは、達成率42%に過ぎないことになります。

     

    東西線工事の本格着工前には次のような問題が指摘されていたものであり、現在の少ない乗客数は当初から予想・把握されていたものともいえます。現在・将来の市民に多額・重い負担をのこすという現実も直視し、検討する必要があると思われます。

     

    ・ 仙台市は、許可申請時に、国の示す方法とは異なる費用便益比計算(投入金額に対する効果をみるもの)を行い、費用便益比を「1.62」としていたものの、裁判所から「1.09」と修正されたこと

     

    ・ 最新のパーソントリップ調査(人の移動の市場調査のようなもの)が存在しながら、「(最新の調査を用いると)東西線事業の見直しに繋がってしまう」(当時の仙台市都市整備局総合交通政策部長)などと述べ、あえて古いパーソントリップ調査を使用したうえ、事業に着手・強行してきたこと(最新のパーソントリップ調査によれば多くみても1日5万人程度との指摘がなされていたものです)

     

    ・ 仙台市は、立退きを求めていた追廻地区(国際センター向い)について東西線の需要予測のときだけ乗客数計算に入れていたこと

     

    ・ 上記費用対効果「1.09」は需要予測1日11万9000人を前提としてのものであるから、その需要予測が不達成であれば、「1.00」を切ることは明らかであること

     

    ・ 仙台市は、「開業時」から需要予測を1日11万9000人としていたこと

    【裁判・行政】補助金の目的外使用について、自治体からの補助金交付決定取消が行われていなくても、住民訴訟の対象となるとする裁判例(仙台高裁H27・7・15)

    原審(盛岡地裁平成26年12月19日)が「取消権を行使することによって発生する不当利得返還請求権が『債権』に該当するということはできず」などと誤った判断を行ったものを、仙台高裁平成27年7月15日判決(判例時報2272号35頁)が原判決を取り消し、正しく是正したものです。

    自治体が形式的な「取消権」を行使しなければ住民訴訟の対象にならないとすれば、住民が違法・不当な自治体の会計行為の是正を図る住民訴訟の意義を殆ど失わせるものです。本件は当事務所も関与させていただいておりますが、原審(盛岡地裁)は、その結論はもとより充実した審理に向けた熱意も感じられず、これでは司法に対する期待や信頼が大きく失われてしまうのではないかと思われるほど残念な状況でした。

    住民訴訟の参考としてアップします。

    【裁判・行政】地方議会政治倫理条例において、議員は、二親等以内の親族が経営する企業に対し市の工事請負契約等の辞退届を徴して提出するよう努めなければならないとする規定が憲法22条1項・29条に違反しないとされた事案(最高裁H26・5・27)

    本件では企業側の辞退規定も憲法21条1項に違反しないとされています。

    憲法判断であり、目的・効果基準で審査されていますが、いずれも努力規定であること、議会の自律的判断が尊重されるべきこと、公正或いはこれに対する信頼を害するおそれはあること等が重視されています。議員には、違反時の公表・辞職勧告措置等の不利益があるとしても、合理性の枠内との判断です。

    否は議論があるところですが、議員の公共的立場や自律権に対する最高裁の考え方が読み取れる判断です。

    【裁判・行政】行政組織法上の行政機関以外の組織(日本年金機構の下部組織・事務センター)は行政事件訴訟法12条3項「事案の処理に当たった下級行政機関」にあたらないとした高裁・地裁の判断につき、その判断を誤りとする最高裁決定(H26・9・25)

    いわゆる管轄(どこの裁判所で裁判を行えるか)に関わるものです。

    原告が徳島地裁に訴え提起したところ、地裁・高裁は、日本年金機構の下部組織・事務センターは行政事件訴訟法12条3項「事案の処理に当たった下級行政機関」にあたらないから、裁判は、高松地裁(高裁所在地の地方裁判所)で行われるべきものと判断しましたが、最高裁は、「このような行政事件訴訟法12条3項の趣旨等に鑑みると、処分行政庁を補助して処分に関わる事務を行った組織は、それが行政組織法上の行政機関ではなく、法令に基づき処分行政庁の監督の下で所定の事務を行う特殊法人等又はその下部組織であっても、法令に基づき当該特殊法人等が委任又は委託を受けた当該処分に関わる事務につき処分行政庁を補助してこれを行う機関であるといえる場合において、当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるときは、同項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するものと解するのが相当である。」「上記の点について審理を尽くすことなく、本件事務センターが行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当しないとして本案訴訟がその所在地の裁判所の管轄に属しないものとした原審の判断には、審理不尽の結果、法令の解釈適用を誤った違法がある。」と判示しました。

    法の趣旨に基づき実質的な判断を行うものとして、管轄の決定などにつき参考となるものです(判例時報2243号11頁)。

     

    最高裁HPに掲載あります↓

    http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84502

    【裁判・行政】破産免責を受けた都営アパートの家賃滞納者に対する、従前の和解条項(滞納の場合は退去)に基づく明渡強制執行は認められないとする裁判例(東京地裁H26・10・27)

    東京地裁は、強制執行を認めれば破産免責の趣旨に反するとして、東京都の強制執行を差し止める判決を出したとのことです。判例地方自治388号112頁記載の判決ニュース掲載のもので判決全文が確認できていませんが、実務上も重要な判断と思われ、アップします。

    【裁判・行政】市の斎場建設のための土地取得・補償金の支払いについて、市長の裁量逸脱濫用があるとして、不法行為責任(賠償額2億4941万超)を認めた高裁判例(名古屋高裁H26・6・6)

    請求者(被控訴人)は「市」で、相手方(控訴人)は「当時の市長」です。

    名古屋高裁平成26年6月6日(判例時報2233号116頁)は、「控訴人は,公共団体の長による売買代金額の決定が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるか否かの判断資料として,代金額と適正価格との比較に重きを置くことは,公共団体の長をして行政目的の遂行に消極的ならしめ,行政の迅速,円満な遂行を阻害するという弊害を招くので,相当ではないと主張する。しかし,上述したとおり,本件では,代金額が正常な取引価格の上限とすべき価格より高額であることのみではなく,かかる代金額の決定の経緯,すなわち,移転先での事業の継続に必要な費用の捻出という本件損失補償基準によれば正当化されない牧場主の意向に沿うべく,高い価格を算出するために鑑定を依頼し,正常な取引価格から乖離した評価額に依拠して代金額を決定したという経緯に加え,そもそも,正常な取引価格から乖離した高額の支出をしてまで,かつ,長期間の明渡猶予期間を本件協定書で約束してまで,その取得の条件である保安林の指定の解除に相当の困難と期間を伴うことが当初から予想された本件牧場地を,緊急性ある(と控訴人が主張する)本件斎場の建設用地として取得すべきであったかに大いに疑問があることを踏まえて,裁量権の逸脱又は濫用の有無を判断しているのであるから,控訴人の上記主張は採用できない。」と判示しました。

     

    市長の裁量違反の事案として理論的・実務的に参考となるものです。

    【裁判・行政】特定商取引法違反に基づく業務停止処分を受けた業者からの国家賠償請求が排斥され、行政処分の適法性・有効性が確認された事案(さいたま地裁H25・7・10)

    さいたま地裁平成25年7月10日判決(判例地方自治387号83頁)は、当該業者は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供利益について、その広告に商品名・商品購入代金・業務内容等を明示せず著しく高額な月収額を表示するなど誇大広告の禁止(特商法54条)に該当すること、放置すればさらなる被害が生じうることなどを指摘し、処分行政庁の判断は適法・有効であるとして、当該業者の請求を排斥しました(確定)。

    本件に先だって、行政処分の適法・有効性も争われており、東京高裁平成23年7月13日も、適法・有効性を認めています。消費者保護の観点から行政処分を行うにあたって検討・執るべき手続き等が確認できる裁判例です。

    【裁判・行政】いわゆる自衛隊護衛艦たちかぜいじめ自殺被害~文書廃棄の虚偽報告へ賠償を命じた観点から~(東京高裁H26・4・23)

    いわゆる自衛隊護衛艦たちかぜいじめ自殺被害の東京高裁平成26年4月23日(労働判例1096号19頁)です。被害者・ご遺族・弁護団のご活動には頭の下がる思いです。厳しく非難されるべきいじめの実態、判決内容は広く報道されています。ここでは自衛隊側による文書隠匿(虚偽報告)に対する違法性を認定した点を取り上げます。前記東京高裁は、自衛隊が被害者自殺後にたちかぜ乗員に対して行ったアンケートにつき「本件アンケートを保管していながら、・・・本件アンケートは廃棄済みであり所持していないとの理由で開示しないとの通知がされ」たこと、砲雷長・艦長等の間の事情聴取が記載されたメモにつき「艦長が、乙第43号証メモを保管していながら、・・・これを特定せず隠匿した行為」を違法とし、賠償を命じました(確定しています)。

     害者側の情報開示・誠実対応義務は、確定した規範になっており、今後の被害予防・救済の力になるものと思われます。

    【裁判・行政】談合事案における住民訴訟において、住民の訴訟活動によって地方公共団体が金10億円超を回収した後、地方公共団体が当該住民側へ支払った弁護士費用相当額につき、談合業者へ請求したが認められなかった事案(大阪地裁H25・12・16)

    地方公共団体が談合業者に直接訴訟を起こしていた場合には当該弁護士費用相当額は談合業者の負担となることと対比すると一見すると不合理な感もありますが、大阪地裁平成25年12月16日判決(金融・商事判例1451号52頁)は、その不合理な面も存するとしつつ、地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号・7項の解釈とともに、そもそも、本来地方自治体が行うべき是正行為を行わなかった面もある旨の趣旨を指摘されており、地方公共団体側の職責や住民訴訟の理解に参考になるものと思われます。なお、控訴されています。

    【裁判・行政】町の管理するスキー場での雪崩・死亡事故につき、町に設置・管理上の瑕疵があるとし、自然災害の観点から3割減額の賠償を命じた裁判例(松江地裁H26・3・10)

    松江地裁平成26年3月10日判決(判例時報2228号95頁)は、スキー場で通常予想される危険は雪崩であり、スキー場は、雪崩の危険に対する物的設備と人的設備を備えるべきであり、本件町はこれを怠ったとし、他方、損害認定においては、自然災害性を考慮し民法722条2項を類推適用し3割減じるかたちで、賠償を命じたものです(確定しています)。

     キー場事故に関する裁判例は幾つかありますが、考え方等も含め、参考となるものと思われます。