弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・行政】年金給付受給権者が死亡した場合に、その配偶者が未支給年金を請求するための「その者と生計を同じくしていたもの」にあたるとして不支給処分を取り消した裁判例(仙台高裁H28・5・13)

    仙台高裁平成28年5月13日判決(判例時報2314号30頁)は、不支給決定を是認した一審判決(仙台地裁平成27年10月5日)と同様の判断基準をとりつつ、その判断基準に理解・あてはめにおいて、婚姻費用分担義務の存否やその他の規範的要素も含めたより実質的な判断を行い、不支給決定を取り消したものです(確定しています)。

     

    年金支給場面における実質的判断の必要を示すものであり、受給者保護・救済に参考になる判断と思われます。

    【裁判・行政】設計業務の受託業者を選定する審査委員会における市の職員の説明が違法であるとして市の損害賠償責任を認めた裁判例(福岡高裁H27・7・29)

    市の職員が、審査委員らに対し審査に影響を及ぼす重要な事項の説明を誤ったことを違法とするもので、賠償額は88万円(慰謝料80万円、弁護士費用8万円)です(判例地方自治415号68頁)。原審を是任する判断で確定しています。

     

    審査員会における市職員の役割・位置づけなども参考になると思われます。

    【裁判・労働:行政】臨時的任用職員を約6年間にわたって2か月未満の期間で繰り返し雇用したことにつき、地方公務員法22条2項の趣旨に反する違法行為であるとして国家賠償請求を認めた裁判例(長崎地裁H28・3・29)

    判決文は、労働判例1138号5頁、判例地方自治412号67頁等に掲載されています(高裁で和解成立とのことです)。過酷な労働環境にある方々の救済その改善方向につながることがのぞまれます。

    地方公務員法22条2項は以下のとおりです。

     

    (条件付採用及び臨時的任用)

    第二十二条  臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、全て条件付のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会等は、条件付採用の期間を一年に至るまで延長することができる。

     人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、緊急の場合、臨時の職に関する場合又は採用候補者名簿(第二十一条の四第四項において読み替えて準用する第二十一条第一項に規定する昇任候補者名簿を含む。)がない場合においては、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、その任用は、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。

    【裁判・行政】関連事件において被告国等の指定代理人として活動していた者が、裁判官として基本事件の裁判所を構成したことについて、「裁判の公正を妨げるべき事情」があるとして、忌避を認めた事案(金沢地裁H28・3・31)

    いわゆる生活保護基準引下げ違憲処分等請求事件に関し、従前、国側代理人だったものが、いわゆる人事異動(法務省と裁判所の人事交流)で、途中から裁判官として当該事件に関与するようになった事案です。

    市民感覚からも弁護士実務的にも、当然、当該人物はその事件に裁判官として関わることはできないと思われ、結論としては、金沢地裁平成28年3月31日決定(判例時報2299号143頁)もその結論を採用しましたが、そもそも、本件のような紛争が生じること自体に司法の大きな根深い問題が存するものと思われます。

    【裁判・行政】市職員の懲戒免職処分について、処分事由説明書に処分事由の記載がなく手続違背の程度が著しいものとして無効とした裁判例(水戸地裁H28・1・28)

    水戸地裁平成28年1月28日判決(判例地方自治414号42頁)は、「一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決すべきところ、地公法49条1項が、職員に対し、懲戒等の不利益処分を行う場合にその処分の事由を記載した説明書を交付しなければならないとしているのは、職員に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、処分権者の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の事由を職員に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、その記載を欠く場合には、処分自体の取消しを免れないと解するのが相当である。そして、このような理由付記制度の趣旨に鑑みれば、処分事由説明書に記載すべき処分事由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して不利益処分がされたかを、被処分者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に不利益処分の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知り得るような場合を別として、地公法49条1項の要求する処分事由の記載として十分でないといわなければならない(最高裁昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁、最高裁昭和60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁参照。)。」と判示したうえ、本件事実関係の基づき処分無効としました。

     

    処分対象事実(職員の生活保護受給者に対するわいせつ行為)は認定されているので、行政機関の処分のあり方について、実務上、注意すべき点を明確にしたもので、行政・自治体、職員・労働者側ともに参考になると思われます(確定しているようです)。

     

    【裁判・行政】生活保護受給者が引っ越しに伴い戸建住宅を売却し、引越しのうえマンションを購入したところ、引越先でマンション売却を指示され、これに従わず生活保護停止処分とされた事案につき、当該停止処分を違法と判断した裁判例(さいたま地裁H27・10・28)

    受給者は就労できない状態であり、もともと戸建住宅の保有は認められていたそうですが、交通事故に遭ったことなどもあり、約30年以上も通っている病院への通院も困難な状況になり、医師の意見もあり、病院近くに引越すために戸建を売却した事案です。戸建売却後、その代金を原資に、病院近くのマンションを購入したところ(担当の福祉事務所も変更)、福祉事務所からマンション売却を指示されてしまったものの、戸建売却の経緯からすれば、当該指示に問題があるとして売却に応じなかったところ、生活保護停止とされてしまったもので、当該停止処分の違法性を争ったものです。さいたま地裁平成27年10月28日(消費者法ニュース106号258頁)は、戸建住宅保有が認められていたこと、引越し理由の合理性、売却代金と購入代金とがほぼ一致していること等も踏まえ、福祉事務所のマンション売却指導が違法であり、よって保護停止処分も違法であるとして、停止処分を取り消しました。

    さいたま地裁の判断は、当然ともいえるものですが、現実には生活保護・福祉事務所の形式的判断で実務が運用されるなか、生活保護制度の趣旨に立ち返った裁判例として実務上も参考になると思われます。

    【裁判・行政】選挙管理委員会の委員の月額報酬条例規定は、委員が大部分の日において疾病等のために職務遂行できなかった場合を含めて一律に月額報酬全額を支給するものとしている限りにおいて無効とする裁判例(東京地裁H25・10・16)

    非常勤職員の行政委員報酬問題に関する判断です。同問題は、地方自治法203条の2第2項本文が、「その勤務日数に応じてこれを支給する。」ことを原則とし、いわゆる滋賀行政委員会委員報酬事件における大阪高裁平成22年4月27日判決(判例タイムズ1362号111頁)が月額報酬制が前記地方自治法に反し無効とするなど大きな社会問題となり適正化の流れがありましたが、これに逆行する意味合いを有する最高裁平成23年12月15日判決(判例タイムズ1379号98頁)が出されていました。

    東京地裁平成25年10月16日判決(判例タイムズ1419号250頁)は最高裁の判断枠組みに立っても月額報酬制を無効としたもので実務上参考になるものです。

    【裁判・行政】いわゆるホームレスを都市公園から退去させるにあたり直接強制した行為が国家賠償法上違法とし賠償を命じた裁判例(東京地裁H27・3・13)

    東京都渋谷区の事案です。

    東京地裁平成27年3月13日判決(判例自治401号58頁)は、「被告は、原告の意に反し、原告を無理やり担ぎ上げて公園から退去させており、これは退去命令を直接強制したと評価するほかなく、国家賠償法上違法であると認められる。」と判示し、金11万円(慰謝料10万円、弁護士費用1万円)の賠償を命じました(控訴あり)。

    【裁判・行政】通行中の自転車が道路上のグレーチング(水路の蓋)の隙間にタイヤを挟み転倒負傷した事案について、道路の瑕疵があるとして市に賠償を命じた裁判例(京都地裁H26・11・6)

    京都地裁平成26年11月6日判決(判例自治401号73頁)で、2割の過失相殺を行っています(確定)。

    道路の瑕疵事案は多いですが、その1つの事例として参考になると思われます。

    【裁判・行政】特定商取引法違反による業務停止処分の適法が維持された事案(東京地裁H26・11・21)

    いわゆる悪質業者に対する業務停止処分の適法性が争われた事案で、東京地裁平成26年11月21日(判例自治401号76頁)は、行政処分の有効・適法性を確認しました。特商法違反業者らへの業務停止処分は、消費者被害予防・拡大防止策として有効な手法ですが、業者側から抵抗を受けることもあり、そうした事案で有意な処分を行っていくための参考例になると思われます。