弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・行政】内部告発を行った公務員に対する懲戒処分(免職)を違法・無効とした裁判例(大阪地裁H24・8・29)

    大阪地裁平成24年8月29日判決は、市が、河川等の清掃を行う同僚が、清掃作業従事中にいわゆる遺失物・ゴミ等のなかから現金などを領得・配分していた様子を録画・撮影し、市議・マスコミに提供した公務員(甲)に対し、拾得した金銭等の領得行為・粗暴行為を理由として行った懲戒処分(免職)を違法として取り消したものです(判例地方自治361号50頁、366号4頁)。

    この事案では、公務員(甲)自身にも、金銭の配分を受けるなどの非違行為があったと認定されながら、非違行為の背景には長年岩渡河川事務所ぐるみで清掃作業中に物色・領得行為が行われていたことがあること、非違の程度、処分に至る過程の不十分さ等を指摘し、懲戒処分(免職)を違法としてします。懲戒処分が免職という点もポイントですが、形式的には非違行為が存するとしても、他の複数の考慮事項から適否が判断されることを明らかにするもので、安易な懲戒処分を規制する、参考となるものと思われます。

    かかる判断要素として、(1)懲戒処分の前提となる非違事実に誤認、(2)目的・動機違反、(3)他事考慮禁止違反、(4)要考慮事項不考慮の有無、(5)均衡・比例原則違反、(6)平等原則違反、(7)内規違反等が考えられるといわれています(小川正「現行公務員制度における懲戒処分の位置づけと最近の裁量権濫用をめぐる裁判例」自治総研通巻384号96頁)。

    なお、行政裁量と懲戒処分に関する最高裁判例として以下のものがあります。

    ・ 昭和52年12月20日(判時874号3頁、判タ357号142頁) 税関職員関係

    ・ 昭和53年10月4日(判時903号3頁、判タ368号196頁) 在留期間関係

    ・ 平成2年1月18日(判時1337号3頁、判タ719号72頁) 高校教諭関係

     

    【行政・裁判】地方公共団体の提供する土地情報の誤り等により、自治体の賠償責任が認められた裁判例(2件 東京地裁H24・2・8、東京地裁H24・8・7)

    1つめ(東京地裁H24・2・8 判例時報2165号87頁)は、墨田区作成の高度地区の表記が誤っていたために、その表記を前提にマンション建築事業を計画したところ、その後誤りが判明し、正しい情報を前提とすると先のマンショ建築事業を断念せざるを得なくなった事案につき、953万円ほどの賠償を命じたものです。

    2つめ(東京地裁H24・8・7 判例時報2168号86頁)は、千葉県が、国定公園無いの普通地域の土地を開発分譲しようとする業者に対し、特別地域であることを前提に誤った行政指導を行った事案につき、407万円ほどの賠償を命じたものです。

    行政が誤った判断・行為を行った場合に責任を負うのは当然ですが、地区・地域指定など、行政分野の中でも専門性が要求される分野で、いわばこうした単純・基本的ミスが立て続けに生じることは、単に担当者個人の問題ではなく、組織の存立にかかわる重大な警鐘とも感じられます。

     

    【裁判・行政】国立病院用地売買につき、国側(国立病院機構)から下関市に対する1億1550万円の賠償請求が認められた裁判例(山口地裁下関支部H24・1・31)

    売買目的物の土地に、従前の建物の基礎、杭等の埋設物が存在していることが判明した事案につき、買主の国側(国立病院機構)が、売主の下関市に対し、売買契約上の瑕疵担保責任・債務不履行責任に基づく損害賠償請求が認められた事案です(判例地方自治360号75頁)。

    実質上、行政どおしの争いであること、高額な賠償事例であること等からいくつかのところで取り上げられていますが、国民・住民の立場からは、いずれにせよ公金の支出であること、行政のミスにより高額な賠償義務が生じていること、それゆえ国民・住民に訴訟経過等もきちんと報告・開示されるべきであること等の観点からも、行政間の訴訟等は、留意が必要です。

    現在、栃木県・宇都宮市間でも億単位の問題の訴訟が係属されているようですが、国民・住民への報告・情報開示は必ずしも十分なものとはいえないようです。

    【民事・裁判】被災(日高・大雨氾濫)時の行政の現場対応につき、義務違反を認めた裁判例(札幌高裁H24・9・21判決)

    平成15年8月の日高地方の大雨時に、行政側が早期に門の操作職員を退避させた結果、適切な門操作等が行われず、氾濫が生じ住民の損害がでた事案につき、一審に続き、行政側の義務違反を認めたものです。

     
    裁判所HP
    → http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82575&hanreiKbn=04
     
    東日本大震災時と異なる面があることはもちろんですが、行政の職員に対する安全配慮義務の視点にもふれ、しかしこうした非常時にこそ対応すべきであることを判示するなど、東日本大震災時の問題にも参考になる裁判例と思われます。

    【建築】建築行政共用データべースシステム(国土交通省関係・参考)

    非建築士による建築士詐称(一級建築士のなりすまし事案)につき、国土交通省から事案等の報告がなされています。そのなかで「発覚の経緯」として、「建築行政共用データベースシステム」の利用により発覚した旨報告されています。建築士の資格関係等の確認システムが十分でないと指摘され続けてきましたが、こうしたシステムは存在・利用されているようであり、ご参考までにアップします。

    国土交通省の当該ページ↓

    http://www.mlit.go.jp/common/000219448.pdf

    建築行政共用データベースシステムのHP↓

    http://www.icba.or.jp/DBkyougikai/

    情報公開請求に対する不存在を理由とする非開示処分が違法であるとして慰謝料支払いが命じられた事案(東京高裁H23・6・15)

    「区長、議長車のガソリン代の請求書(ガソリン会社)の写し、又はガソリン会社からの明細書(1回又は何リットル入れたか分か物)」などと記載され情報公開請求がなされたことに対し、渋谷区が、給油日、伝票№、車番、商品№、商品名、数量、単価等の記載された文書を保有しながら、区長車・議長車毎の区分をしていなかったことから「当該文書については、不存在」として非開示処分を行ったことにつき、東京高裁は「区長車及び議長車の車両番号が記載された本件内訳書及び納品書が存在するにもかかわらず、渋谷区長において、本件公文書は存在しないととの理由で本件非開示処分を行ったことについては、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたとは到底認め難い。」と判示し、渋谷区に対し慰謝料金10万円の支払いを命じました(判例地方自治350号9頁)。

    情報公開請求が、市民の基礎的権利であることに鑑みれば当然の判断と思われますが、他方、情報を隠したがる行政側の体質を端的に示す事例でもあります。本件のみが特殊事案ではないことに留意し、引き続き、行政側へきちんとした対応を求め、また市民の立場から行政側の対応をチェックしていく必要があるでしょう。

     

    生活保護打切処分の取消(宮城県の事例・地震保険の収入認定を誤りとするもの)(H24・3・5裁決)

    生活保護受給者が地震保険を受けた事案につき、厚生労働省によって被災者の義捐金等の収入認定(生活保護打ち切りにつながるもの)には慎重な対応を要するとされているのも関わらず(平成23年5月2日付け社援保発0502第2号厚生労働省社会・援護局保護課長通知など)、塩釜市がこうした対応を行わず、被災者の地震保険金を収入認定し生活保護打ち切り処分を行ったことは、誤った処分であるとして、平成23年3月5日、塩釜市の処分を取り消す裁決が出されました。

    内容的には当然の判断と思われますが、塩釜市の不十分・不当な取り扱いは多数報告されていますので、被災者救済に大きな参考となる裁決と思われます。

    なお、打ち切り処分の不当性・違法性は、不利益処分の理由開示を義務づける行政手続法第14条の観点からも、是正を求めることが考えられます。

    ※ 行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)

    ※ 参考判例

     

    最判昭和38年5月31日 

    必要な程度の記載を欠くものを、法の要件を満たしていないとするもの。

    最判昭和49年4月25日

    法令の適示のみでは足りず、具体的な事実の特定も必要とするもの。

    最判平成23年7月6日

    建築士免許取消を、法14条1項本文趣旨に照らし、違法とし取消したもの。

     

    化学物質過敏症の公務災害性を認めた高裁判決(広島高裁岡山支部H23・3・31)

    労災申請、地裁段階では公務災害性を否定されていた事案につき、高裁で公務災害性を認めたものです(労判1036号50頁)。化学物質過敏症の統一的な定義や診断方法は確立されていないとしながらも、化学物質の存在、被災者の身体被害、医師の専門的判断等から判断したもので、近時の化学物質過敏症・シックハウス症候群の被害実態・研究診察の進歩からすれば、ある意味当然の結果ではありますが、理解不足の行政・司法判断が多い中、意義ある結論と思われます。

    非常勤行政委員の高額報酬の支出差止めを命じた裁判例(仙台地裁H23・9・15)

    全国各地で、非常勤行政委員の高額な報酬が問題とされてきました。年間僅か数時間の勤務に対し、100万円を超える報酬が支払われ、行政委員は「甘い椅子」と言われ、行政監視等の本来の職責も到底果たされているとはいえない実態が見られました。仙台市民オンブズマンらも昨年6月5日に市民フォーラムを開催し詳細な調査に基づき問題提起を行いました。

    平成22年6月5日の案内 http://sendai-ombuds.net/network/2010/05/post-8.html

    この分野では、大阪高裁平成22年4月27日が勝訴しており、今回の仙台地裁判決はこれに続くものです。全国の裁判・運動にも力となる説得力ある判決です。

    判決文 http://www.ombudsman.jp/data/110915.pd

    仙台市のゴミ処理に関する契約についての住民監査請求(H22・7・16)

    仙台市民オンブズマンは、平成22年7月16日、仙台市が原則競争入札であるべき契約締結事務につき特命随意契約としいること、実質的な見積書も取り付けていないと言わざるを得ないことなどの問題点を指摘し、住民監査請求を行いました。まずは監査委員の判断待ちですが、行政の実態・問題点を知り考えるよい実例です。

    説明・住民監査請求書など↓。

    http://sendai-ombuds.net/free/2010/07/post-88.html