弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・家族】被相続人の祭祀財産(仏壇・墳墓)や遺骨について、二女とした家裁判断を高裁が長女に変更した裁判例(名古屋高裁H26・6・26)

    名古屋高裁平成26年6月26日(判例時報2275号46頁)は、名古屋家裁が被相続人の死後の状況を重視し二女を祭祀財産等の承継者と判断したことに対し、被相続人との生前の関係を重視し長女を祭祀財産等の承継者としました(確定)。

    祭祀承継者については、相続の一般ルールとは別に、民法897条で「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」(1項)、「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。」(2項)とされています。その判断基準としては、東京高裁平成18年4月19日決定(判例タイムズ1239号289頁)の「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情」を総合考慮するとの基準がリーディングケースと言われています。

    本件は、家裁・高裁の判断が分かれたもので、上記リーディングケースのあてはめ例として、実務上参考になると思われます。

    【裁判・相続】死亡保険金の受取人指定が「法定相続人」とされた場合に、1名が相続を放棄したときにも、他の者の受け取りは増えないとする裁判例(大阪高裁H27・4・23)

    大阪高裁平成27年4月23日判決(金融・商事判例1481号14頁・要旨)は、最高裁平成6年7月18日判決(判例時報1511号138頁、判例タイムズ863号139頁、金融・商事判例958号3頁)が保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。けだし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがって、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合に、数人の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思表示」である相続分の割合によって権利を有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるものというべきである。」と述べていることを参照し、共同相続人が相続放棄しても、他の共同相続人に放棄者の保険金請求権が帰属するものではないと判示しました。

    上告・上告受理申立てがなされていますが平成6年最判の実務上の扱い等の参考になろうかと思われます。

    【裁判・民事】相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)の起算点につき、相続債務が存することを知った時とする裁判例(福岡高裁H27・2・16)

    被相続人死亡が昭和63年6月、相続放棄申立てが平成26年7月の事案です。原審(佐賀地裁H26・10・17)は相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があったとも認められないとして、昭和63年6月を起算点として、相続放棄の申立てを却下しましたが、福岡高裁平成27年2月16日(判例時報2259号58頁)は、共同相続人の1人が全て相続し自らは相続すべきものがないと信じたことに相当の理由があるなどの事情から、債権者からの通知を受けた平成26年7月を起算点として相続放棄を受理・認めました。

    当然の判断かとは思われますが、実務上、問題となる場面も多く、参考になると思われます。

    【情報・相続】H27・1から相続税が変更されています(基礎控除・納付期間など)

    平成27年1月1日から、基礎控除額が3000万円×法定相続人数+600万円(従前は5000万円×法定相続人数+1000万円)になり、また、納付期限が相続を知った日から10か月以内などになっています。

    遺産分割にも関わるもので、法テラスHPにコンパクトにまとめられています。

    http://www.houterasu.or.jp/service/souzoku_igon/souzokuzei/change.html

    【裁判・相続】共同相続された①委託者指図型投資信託の受益権、②個人向け国債について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとする判例(最高裁H26・2・25)

    最高裁平成26年2月25日判決(判例時報2222号53頁)は、①委託者指図型投資信託の受益権については、金銭支払請求権のほか信託財産に関する帳簿書類閲覧請求権等の可分給付を目的とする権利でないものも含まれていること、②個人向け国債については、一単位未満での権利行使が予定されていないこと等から、それぞれ、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判示しました。

    預金債権は通常相続分に従って分割されると理解されていますが(最高裁S29・4・8)、定額郵便貯金債権は当然に分割されないとされています(最高裁H22・10・8)。

    これらと併せ、相続問題の処理・解決にあたって注意・参考となる判断です。

    【民事・家族】内縁解消後の財産分与義務につき、相続されるとする裁判例(大阪高裁H23・11・15決定)

    内縁解消後に、財産分与審判手続中に、財産分与義務者が死亡した事案につき、その義務者の相続人が財産分与義務を相続するか否かが問題となったものです。大阪高裁平成23年11月15日決定は、相続性を肯定しました(判例時報2154号75頁)。

    反対の立場からは、内縁関係の死亡解消の考え方(最高裁平成12年3月10日決定・判例時報1716号60頁)からすれば、相続性を否定すべきとの主張がなされましたが、その最高裁決定とは事案が異なるとして、相続性が肯定されたものです。

    内縁関係(社会的結合関係)の増加・多様化のなか、実務上、参考になる事案です。

     

    遺産分割協議における未成年者の特別代理人(弁護士)の善管注意義務違反による不法行為成立の事例(広島高裁岡山支部H23・8・25判決)

    事案を簡略化しますと、A、B、Cの兄弟姉妹で遺産分割協議を行うにあたって、事実上協議内容はまとまっていたものの、Cが未成年者であることから、Cに特別代理人(弁護士)がふされて、遺産分割協議(遺産の多くをAが取得する内容)が成立したケースです。Cの特別代理人としては、Cの利益の観点から、遺産分割協議内容を精査・検討すべきとして、かかる義務違反があったと判断されたものです(判時2146号53頁)。

    当然の判断とも思われる一方、事実上協議内容が決まっていたこと、その協議内容を前提にしたかたちで特別代理人が選任された面もあること等、実務の場面では、注意喚起に値する判断と思われ、弁護士業務向けという面もありますが、ご参考までにアップしました。なお、上告されているようです。

     

    定額郵便貯金債権は相続で当然に分割されないとする判例(最高裁H22・10・8)

    少し前の判例ですが、預金債権は通常相続分に従って分割されると理解されていますから(最高裁S29・4・8)、相続問題の処理・解決にあたって注意・参考となる判断です。判決文で示された理由は次のとおりです。

    最高裁HP http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80749&hanreiKbn=02

    判時2098号51頁など

    「郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」

    財産分与・年金分割調停が審判移行しない場合について(最高裁H23・7・27)

    家庭裁判所の手続きの話で分かりにくいかもしれませんが、実務上、重要な判断と思われアップしました。

    財産分与・年金分割は、離婚成立後2年間に行わなければならないとの期間制限があります。通常は、「申立て」が2年内であればよいのですが、調停不成立の場合で、審判手続きに移行しない場合には、「申立て」が2年内であっても、2年間が過ぎてしまえば、基本的には財産分与・年金分割ができないことになってしまいます。

    通常は、調停不成立の場合には審判手続きへ移行するのですが、本件最判(判時2130号3頁)によれば、申立事項が複数で一般調停事件として取り扱われると、審判移行しない場合もある(認められる)ようです。仙台家裁では、申立時に、整理してくれていたかと思いますが、注意が必要かと思い、アップさせていただきました。

     

    いわゆる重婚的内縁関係において、一方の死亡後、他方の建物使用(権)を認めた裁判例(名古屋地裁H23・2・25)

    いわゆる重婚的内縁関係にある者らが、共同使用していた建物につき、一方が死亡し、他方は建物所有権を有しておらず、死亡者の相続人から明渡等を求められた事案につき、生前、①無償使用の黙示の合意があった、②そうでなくても明渡請求は権利濫用として、建物使用を認める判決が出されました(名古屋地裁H23・2・25判決 判時2118号66頁)。

    内縁の一方を保護する裁判例は多く、単独使用の合意を認めた最高裁判例(平成10年2月26日 判時1634号74頁)もありますが、本件は「いわゆる重婚的」関係の場合にも、保護される事案として参考になると思われます。