弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
  • HOME
  • >
  • カテゴリー: 学校
  • 【裁判・学校】親の教師に対する批判発言について、名誉毀損の成立は否定する一方で、教師の受忍限度を超えるものとして名誉感情の毀損を認め、損害賠償を認めた裁判例(横浜地裁H26・10・17)

    親の発言内容は、教育委員会において、「この担任は、二重人格・多重人格なんですね。」「おとなしくて上品で良い先生と思っていたが違うんですね。電話ではやくざみたいだったというんですね。」「差別する、暴行する。」「陰湿なんですこの担任は。」などと発言したことが認定されています。

     

    横浜地判平成26年10月17日(判タ1415号242頁)は、教師に対する批判的言動が直ちに不法行為を構成する違法性を有するものではないとしながらも、「担任教師に対する人格攻撃に及ぶなど上記目的による批判ないし非難を超えて、担任教師が受忍すべき限度を超えたものである場合には、同人の人格的利益である名誉感情を毀損するものとして違法性を認めることが相当である。」として、本件では違法性あるものとして、精神的被害として金5万円の賠償を認めたものです(他の被害もあり)。なお、確定しています。

     

    学校・教育現場での問題は難しい対応が迫られる面もありますが、そうした場面に関する裁判例(考え方)として関係者にとって参考になる事例と思われます。

    【裁判・学校】市立小学校1年生が、夏休み中、学校でのプール学習中に溺死した事故につき、県・市に対する国家賠償請求が認められた裁判例(京都地裁H26・3・11)

    京都地裁平成26年3月11日判決(判例時報2231号84頁)は、巨大ビート版を16枚も並べ監視が困難な状況を作り出したことや掃除等により十分な監視をしていなかったことから、注意義務違反を認定し、約3000万円の賠償を命じました(確定)。

    学校での事故は少なくないですが、プール事故は、一旦それが生じれば、生命・身体の安全に直結するものですから、高度かつ十分な配慮・対策が求められるものです。

    昨年の判断ですが学校事故の例としてアップします。 

    【裁判・労働】精神疾患をかかえる市立中学の女性教員に対する、校長・教頭・教育委員会・教員センター対応・言動等がパワハラであり、精神疾患を憎悪させ自殺選択に至らせたとして国家賠償を認めた裁判例(鹿児島地裁H26・3・12)

    鹿児島地裁平成26年3月12日判決(判例時報2227号77頁)は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。この理は、地方公共団体とその設置する中学校に勤務する地方公務員との間においても同様に当てはまるものであって、地方公共団体が設置する中学校の校長は、自己が指揮監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である。」と述べた上、「前記第3・3において判示したとおり、平成17年以降の校長、教頭、県教育委員会、指導官及び本件担当指導官らの上記一連の各行為が亡Aに対して心理的な負荷の大きい影響を与えており、これが、亡Aの精神疾患を増悪させる危険性の高い行為であったと認めることができるから、亡Aはかかる行為の影響により、正常な判断ができない状態で自殺したものとみるのが相当であり、そうであるとすると、校長、被告県教育委員会、指導官及び本件担当指導官らの上記一連の各行為と亡Aの精神疾患の増悪及び自殺との間に相当因果関係があるとみるのが相当である。」とし、素因減額3割、過失相殺2割のうえ、加害者側に賠償を命じました。

     記判断、その基礎となる事実認定とともに同種被害の救済に参考となるものと思われます。(確定しています。)

    【書籍・文献(2)】「あのとき、大川小学校で何が起きたのか」池上正樹・加藤順子

    本日(3月10日)、ご遺族の方々が、訴訟を提起されました。

     

    『世の中は自分のみえるようにしか存在しないし、自分は他人からみえるようにしか存在しない』

     

    3月11日の出来事さらには被害者の方々の行動と声と苦しみを、きちんと自分のこととして向き合うためにも、一度は読まれることをお勧めします。

    【裁判・学校】町立小学校の生徒の自殺につき、学校側に被害者の保護者に対する事故調査・結果報告義務が存するとした裁判例(札幌地裁H25・6・3)

    小学生の自殺という深刻な被害であり、必ずしも被害者ご遺族のお気持ちに沿う判断かは把握しかねるものではありますが、学校側に原因調査や報告義務を認めた点(地方公共団体の賠償責任も認めています)では、こうした被害において被害者・ご遺族の真の願いが真実究明・再発防止にあることが少なくない実態からみても、意味ある判断と思われます。

    判示部分(規範部分)は以下のとおりです。

     

    「在学中の児童が自殺し、それが学校生活上の問題に起因する疑いがある場合、当該児童の保護者がその原因を知りたいと思うのは当然のことであるが、保護者において、学校生活上の問題を調査することは困難である。他方、学校がその点を調査することは、学校が教育機関として他の児童の健全な成長やプライバシーについて配慮すべき立場にあり、その調査能力に一定の限界があることを考慮しても、保護者がこれを行う場合に比べてはるかに容易であり、その効果も期待できることは明らかである。
     学校設置者は、在学する児童の学校生活上の安全に配慮して、無事に学校生活を送ることができるように教育・指導をすべき立場にあるのであるから、児童の自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがある場合、その原因を究明することは、健全な学校運営にとり必要な事柄である。したがって、このような場合、学校設置者は、他の児童の健全な成長やプライバシーに配慮した上、児童の自殺が学校生活に起因するのかどうかを解明可能な程度に適時に事実関係の調査をしてその原因を究明する一般的な義務を負うと理解できる。また、自殺した児童の保護者から、自殺の原因についての報告を求められた場合、学校設置者は、信義則上、在学契約に付随して、当該児童の保護者に対し、上記調査義務に基づいた結果を報告する義務を負うというべきである。」(判例時報2202号82頁以下。抜粋部分は101頁)。

    【裁判・学校】高校1年生の柔道部員が試合前ウォーミングアップ中に急性硬膜下血腫を発症した事故につき、顧問教諭の過失が認められ学校法人に1億8700万円余の賠償責任が認められた裁判例(東京高裁H25・7・3)

    いわゆる学校事故の事案であり、東京高裁は、被害生徒が約1カ月前に柔道を始めたばかりであること、試合前の練習相手と大きな技量差があったこと、試合前の練習では全力で対応すること、被告生徒が2週間ほど前に脳震盪になっていたこと等の事情から、教諭に危険が生ずる予見は可能でありながら、その対策を怠ったものとして、教諭の過失を認め、学校法人に賠償を命じたものです(判例時報2195号20頁)。なお、損害の認定にあたり過失相殺1割としています。判決は確定しています。

     

    判決が「柔道における傷害により疾病や死亡に至る事故も平成15年から8年間で86件も発生しており、そのうち55.8%が中高生に発生している」と指摘するとおり、中高校生での柔道事故は、多発・深刻な状況にあり、事後的法的賠償はもとより一学校・教諭の問題ではなく、国・学校の教育制度のあり方そのものの問題として、現代的かつ現実的な対応が急務であることを示す判決であるとも把握されます。

    高校生が柔道部の練習中に重い後遺障害を負った被害につき、学校側の過失・損害賠償責任が認められた裁判例(札幌地裁H24・3・9)

    本件は、被告設置の高校の柔道部に所属していた高校生が練習試合中の事故により四肢不全麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害を負ったことについて、高校生側が、顧問教諭ら及び学校長に安全配慮義務を怠った過失があるなどとし、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

    判決は、被害者高校生の柔道経験(能力)がさほど高いとはいえないこと、直前にも怪我をしていること等の具体的事実から、被害者高校生を練習試合に出場させた場合、大きな怪我を受ける危険性を予見しえたものとして、北海道に賠償を命じたものです(総額約1億3000万円)(判時2148号101頁)。

    本件は部活動における事案ですが、武道が必修化されるなか、今一度、学校における教育と危険を考えることを示唆する事案であるとも思われます。

     

    学校法人の塾長(校長)の解職(解雇)が労働契約法17条1項に反し無効とされた裁判例(仙台高裁秋田支部H24・1・25)

    学校法人の塾長(校長)が解職(解雇)されたことから、塾長(校長)が解雇無効・地位確認等を求めた事案につき、仙台高裁秋田支部は、本件解職処分は労働契約法17条1項による無効である旨判示しました(労働判例1046号22頁)。

    労働契約法17条(↓)の適用事例として参考になると思われます。判決は確定しています。

    労働契約法17条

    1 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

    2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

    群馬県・県立高校バレー部体罰事件で県に賠償命じる判決(前橋地裁H24・2・17)

    提訴時にマスコミ等での報道がなされた事件の判決が出されたとのことです。判決文を入手できていませんが、判例雑誌において、裁判所の判断が示された(県に143万円の賠償を命じるもの・教諭個人責任は棄却)との報道がなされており、今後の同種被害防止のためにも重要な結論と思われ、取り急ぎ、ご報告させていただくものです(判例地方自治№354・120頁)。

    養護学校における教員らの真摯・創意工夫の性教育への介入を違法とする裁判例(東京高裁H23・9・16)

    東京都立七生養護学校において、先生方が子どもたちに分かりやすく性・身体の大切さを伝えるための教育を実践してきたことに対し、東京都側が非難・厳重注意を行ってきたことにつき、東京都側の対応を違法とする判断が示されました(一審の東京地裁判決も東京都側の違法性を認めています。東京地裁H21・3・12)。

    違法・不当な教育介入とたたかわれた原告団・弁護団・支援団の皆さまの活動により勝ち取られた判決で、教育現場で日々子どもに向きあわれご活動される全国の先生方にも大きな力となる判断と思われます。

    原告団・弁護団・支援連絡会の声明などが見られます→http://kokokara.org/