弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・刑事】起訴後の被告人の取調べの適法性を否定し、その供述が任意にされたものではない疑いがあるとして、供述調書の証拠能力を否定した裁判例(東京地裁H27・7・7)

    東京地裁平成27年7月7日判決(判例時報2315号132頁)は、最高裁昭和36年11月21日(刑集15巻10号1764頁、判例時報281号30頁、判例タイムズ126号49頁)の「刑訴一九七条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法一九八条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく、また、勾留中の取調であるのゆえをもって、直ちにその供述が強制されたものであるということもできない。」との規範を踏まえたうえで、否認していること等などの事情から、起訴後の取調べの適法性を否定したものです。

    【裁判・刑事】一部執行猶予判決の事例(千葉地裁平成28年6月2日)

    一部執行猶予制度(平成28年6月1日施行)のはじめての適用事案といわれるものです。判決主文は以下のとおりでです。事案は、同種前科で全部執行猶予中の被告人に対する覚せい剤取締法違反被告事件(2件)でしrたが、裁判所は,実刑は免れないとした上で,被告人の再犯を防ぐ観点なども考慮し、刑の一部の執行を猶予(保護観察付き)して,被告人を懲役2年に処したものです。

     

    【判決主文】

    1 被告人を懲役2年に処する。
    2 未決勾留日数中10日をその刑に算入する。
    3 その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予し,その猶予の期間中被告人を保 護観察に付する。
    4 千葉地方検察庁で保管中の覚せい剤2袋(平成28年千葉検領第1608号符号22および同号符号95)を没収する。

     

    【刑法の条文】

    (刑の一部の執行猶予)

    第二十七条の二  次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。

     前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

     前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者

     前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

     前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。

     前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

    【裁判・刑事】自動車運転過失致傷事案について、検察官において、関係証拠をより慎重に検討していれば、起訴されなかった可能性が否定できないこと、長期間の応訴を強いられたこと等を考慮し、刑を免除した事案(横浜地裁H28・4・12)

    横浜地裁平成28年4月12日判決(判例時報2310号147頁)で、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条ただし書きを適用したもので、確定しています。条文は下記のとおりです。

     

    (過失運転致死傷)

    第五条  自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

    【裁判・労働刑事】荷物搬送用のエレベーターがカゴ到着前にドアが開く故障状態を放置し、その結果、従業員が2階から落下し、エレベーターのカゴに足切断され失血死した労災事故につき、労働安全法違反・業務上過失致傷罪として有罪とされた事案(神戸地裁H25・4・11)

    判決文は裁判所HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/579/083579_hanrei.pdf


    本件エレベーターは、「本件エレベーターは、設置後数年が経過した頃から種々の不具合が出現し始めた。不具合が発覚した場合、被告人Cら、第3工場の従業員が被告人Bに報告し、必要に応じて修理を求めるなどしていた。被告人Bは、修理業者を呼んで修理を行わせたこともあったが、一部の不具合については放置し、十分な修理がされないまま利用が続けられていた。
    平成21年2月当時、例えば、1階の外扉については、東西(工場外側及び内側)の扉とも、搬器が1階にないのに開き、また、外扉が開いていても搬器が動く状態であった。2階の外扉についても、搬器が2階にないのに開く不具合が年に数回程度発生していた。2階の外扉についても、搬器が2階にないのに開く不具合が年に数回程度発生していた。」という状況にあったものです。

    その上で、本件事故は、「平成21年2月25日午後1時1分頃、第3工場2階の製造ラインで業務を行っていた従業員のF(以下「被害者」という。)は、段ボール詰めされた製品を1階に運び降ろすため、通常の作業手順どおり、段ボール箱15箱をパレットに載せた上、それをハンドリフトを使用して本件エレベーター2階出入口の前室付近まで運んだ。そのとき、本件エレベーターの搬器は1階に停止しており、本来であれば被害者が2階外扉を開けようとしてもドアロックが掛かるべきところ、何らかの理由でドアロックが機能せず、被害者によって本件エレベーターの2階外扉が開けられた。被害者は、搬器が2階に停止していないことに気付かないまま、ハンドリフトを押し込んだため、ハンドリフトは段ボール箱を載せたパレットごと昇降路内に突入した(以下、「本件突入事故」という。)。その後、具体的な経過は不明であるが、被害者は本件エレベーターの2階出入口から昇降路内に転落し、1階に停止していた搬器の天井板の上面に落下した。同日午後1時14分頃、被告人Cは、被害者が昇降路内に転落している事実に気付かず、本件エレベーターを作動させて搬器を1階から上昇させた。その結果、被害者は、搬器天井板の上面東側から落下し、上昇する搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれて左下腿部を離断して失血死するに至った(以下、本件突入事故後、被害者が昇降路内に転落し、さらに被告人Cが搬器を上昇させたことにより被害者が死亡するまでの経過全体を「本件事故」という。)。」との内容です。

    荷物搬送用エレベーターでの事故は多発しており、同種案件はもとより、労災事件において刑事責任を問われるケースが少ないなか、刑事責任を負うべき違法レベルの把握にも、参考になるものと思われます。

    【裁判・刑事】傷害致死の事案において、懲役10年の求刑を超えて懲役15年とした第1審判決及び原判決を量刑不当として破棄した最高裁判例(H26・7・24)

    最高裁平成26年7月24日判決は、「これを本件についてみると、指摘された社会情勢等の事情を本件の量刑に強く反映させ、これまでの量刑の傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年という求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、具体的、説得的な根拠が示されているとはいい難い。その結果、本件第1審は、甚だしく不当な量刑判断に至ったものというほかない。同時に、法定刑の中において選択の余地のある範囲内に収まっているというのみで合理的な理由なく第1審判決の量刑を是認した原判決は、甚だしく不当であって、れを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。」と述べ、第一審及び原審判決を破棄しました。

    実務上の求刑の意味とその拘束力を示すもので、刑事実務の場面において重要な意味をもつ判断と思われます。

    判決は最高裁HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84339

    【裁判・刑事詐欺等】被告人が自己が代表者である会社名義の口座から、同口座が詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知りながら預金の払い戻しを受ける行為は、詐欺罪或いは窃盗罪を構成するとする裁判例(東京高裁H25・9・4)

    東京高裁平成25年9月4日判決(判例時報2218号134頁)は、「本件各銀行は、預金債権を有する口座名義人から、その預金債権の行使として自己名義の通帳やキャッシュカードを用いて預金の払戻し請求がされた場合、いかなるときでも直ちに支払に応じているわけではなく、それぞれその普通預金規定において、預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、又はそのおそれがあると認められる場合には、銀行側において、その預金取引を停止し、又はその預金口座を解約することができるものと定めて」いることなどから、犯罪行為者(及びその関与者)の行員を相手とする払い戻しにつき詐欺罪、現金自動預払機からの払い出しにつき窃盗罪が成立するとしました(確定)。

    刑事事件における判断ですが、民事上、被害者が銀行等から返還を受ける方向を確保・拡大する方向にあるものと理解され、投資詐欺等の被害救済の参考にアップしました。

    【裁判・国賠】死刑囚の再審中の打合せ目的に対する、立会人なしの面会拒否につき、違法とした裁判例(広島地裁H25・1・30)

    死刑確定者との面会については、刑事収容施設法121条に、職員に立ち会わせることを原則とするが、立ち会わせないことが相当と認めるときはこの限りではないとの規定があります。広島地判平成25年1月30日は「刑事施設長のこの裁量権も無制限なものではなく、刑事施設長の判断が合理的な根拠を欠き、著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法になるというべきである。」(判例時報2194号80頁)として、本件で裁量違反を認めたものです。死刑囚の再審という多くない場面での判断ではありますが、刑事被告人の権利は憲法上の人権であること等を改めて考えるべき事案としても、参考になると思われます。

     

    【裁判・刑事】わいせつ被害に関する被害者供述の信用性を否定し、1審有罪を破棄し、無罪を言い渡した裁判例(福岡高裁那覇支部H24・2・21)

    わいせつ被害事案において、被害者供述の信用性が争われるケースで、「B子が自らの恥辱体験を創作して被告人を罪に陥れる動機は直ちに見いだし難いものの、供述の信用性判断において虚偽供述の動機を過度に重視するとことは相当ではなく、これは補充的な判断要素とすべきである。すなわち、供述の信用性判断は、客観的な事実との整合性、供述内容の具体性・合理性、供述の変遷の有無及び理由等を基本要素とし、これらに問題がない場合に虚偽供述の動機を検討すべきである。他方で、供述の信用性判断の基本要素に問題がある場合に、虚偽供述の動機が見当たらないことを理由として供述の信用性を肯定すべきではない。」と判示し、被害者供述の信用性を否定し、無罪を言い渡しました(判例時報2175号106頁)。検察側が上告できずに確定したことも含め、参考になる視点・判示です。

     

    【刑事】公訴提起が権限なき事務官によるものとして、公訴棄却とされた事案(最高裁平成24年9月18日・非常上告事件・裁判所HP)

    自動車運転過失傷害事件につき、大分簡易裁判所で、罰金20万円とする略式命令が言い渡され、確定したことに対する非常上告事件です。最高裁は、起訴を行った検察事務官が職務命令を受けていなかったとして、大分簡裁の判決を破棄し、結論として、公訴棄却としました。

    珍しい事例であること、刑事手続にかかわる法律実務家として検討すべきことも多いと思われることから、ご紹介させていただきました。

    最高裁HP↓

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82555&hanreiKbn=02

     

    【情報開示】刑事確定記録(判決書)閲覧を不許可とした検察官の処分を誤りとする最高裁判例(H24・6・28)

    刑事確定訴訟記録法に基づく判決書の閲覧請求について、「プライバシー部分を除く」とする申立ての趣旨を確認することなく、閲覧の範囲を検討しないまま、同法4条2項4号及び5号の閲覧制限事由に該当するとして判決書全部の閲覧を不許可とした保管検察官の処分を誤りとする最高裁の判断が出されました(最高裁HP)。最高裁は「判決書の一般の閲覧に供する必要性の高さ」も指摘しています。

    プライバシー保護の重要性はそのとおりですが、検察側の安易な情報の非公開等へ警鐘をなさらす重要な判断と思われます。

    最高裁判例(HP)↓

    http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82411&hanreiKbn=02

     

    (保管記録の閲覧)
    第四条 保管検察官は、請求があつたときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
    2 保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
    ※ 以下省略。