弁護士メモ|千葉晃平のひとこと
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  • 【裁判・民事】記載内容の一部が虚偽である陳述書の作成・提出に関与した訴訟代理人(弁護士)の不法行為責任の成立を否定した裁判例(東京地裁H27・10・30)

     別件訴訟において陳述書の一部が違法であると認定されたことを前提とする訴訟のようです。東京地裁平成27年10月30日判決(判時2298号58頁)は、結果的に陳述書の内容が裁判所の認定事実に反しとしても、「陳述書の作成が相手方当事者との関係で違法と評価されるためには、その記載内容が客観的な裏付けを欠く(客観的裏付けあることを立証できない場合を含む。)というだけでは足りず、少なくとも、陳述書に記載された事実が虚偽であること、あるいは、判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり、作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要するものとする。」と判示しました(控訴あり)。

     現在の民事訴訟の構造からすると、陳述書の内容に限らず、事実に争いある事案の当事者(代理人)の主張は、結果的にはいずれかが「事実に反する」結果となることは避けがたい面があり、裁判所の判断は穏当と思われますが、他方、こうした訴訟の起きる背景(不満をもたれる当事者がいること等)にも留意が必要かとは思われます。

    【裁判・民事】債務者が住所変更を怠ったため、債権者からの通知が届かなかった場合には、到達したものとみなす旨の合意について、債権譲渡通知の到達の効力を否定した裁判例(東京高裁H27・3・24)

    東京高裁平成27年3月24日判決(判例時報2298号47頁)は、「民法は、債務者の認識を通じて、債権についての取引の安全を確保しようとしている」ことなど民法上の規定・趣旨を重視し、「本件みなし到達規定」は。「結局のところ、債務者の認識を通じて債権の取引の安全を確保しようとする民法の趣旨を没却することになるというべきである。」として、その合意(みなし到達規定)の効力を否定しました(上告あり)。

     

    債権譲渡の場面の判示ですが、民法の解釈・実務的感覚の理解として参考になると思われます。

    【裁判・民事】国(自衛隊)が、国民監視行為を争えず上告を断念しました(H28・2・17報道)

    H28年2月17日北新報記事では、被害男性の「今後は自衛隊が市民を監視しないと約束したわけではなく、安心はできない。」とのコメントも掲載されています。地裁・高裁で認定された『監視文書』には膨大な監視行為が記載されています。これら1つ1つの行為の検証・是正も大きな課題と思われます。
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    ≪自衛隊監視訴訟 国は上告せず 1人への賠償 確定≫

    http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160217/k10010411881000.htmlira
    2月17日
    0時59分
    NHK

    ▼自衛隊が、イラク派遣に反対する集会を監視したのは違法だとして、集会の参加者90人余りが国を訴えた裁判で、
    2審の仙台高等裁判所が原告の1人に対しプライバシーに関わる違法な情報収集があったと認めた判決について、防衛省は16日夜、上告しないことを明らかにしました。
    これで1人については国に賠償を命じた判決が確定しました。

    この裁判は、自衛隊の情報保全隊がイラク派遣に反対する集会などを監視し、参加者の個人情報を集めていたのは違法だとして、東北6県の集会の参加者91人が国に監視の差し止めと賠償を求めたものです。

    2審の仙台高等裁判所は今月2日、原告のうち1人について「自衛隊は公になっていない本名や勤め先などを取得しており、プライバシーに関わる情報収集で違法だ」などとして国の責任を認め、10万円の賠償を命じました。
    この判決について防衛省は16日夜、主張について一部、裁判所の理解が得られなかったものの、上告は行わないことにしたと発表しました。

    原告の多くは賠償や監視の差し止めが認められなかったとして最高裁判所に上告しましたが、賠償が認められた1人は上告をしておらず、この1人については判決が確定しました。

    原告側弁護団の小野寺義象弁護士は
    「国が上告しないのは、判決にある違法行為を認めたということで、われわれの活動の成果だ。最高裁判所では国の監視が違法だったことを認めてもらえるよう訴えたい」と話しています。  

    【裁判・民事手続】金銭請求の一部について訴訟救助決定が出された後、請求額を訴訟救助対象額に減縮したが、補正命令対象の印紙代を納付しなかったとして却下した地裁判決を誤っているとして訴訟係属を認めた最高裁判例(H27・9・18)

    事案は、当初300万円の請求でしたが、訴訟救助(印紙代を裁判所が立て替えるもの)が50万円の範囲でのみ認められ、残金分については納付の補正命令が出された事案で、請求金額を50万円に減縮する一方、補正命令には従わなかったところ、東京地裁は訴え全部を却下したものです(東京地裁平成25年1月25日判決)。これに対し、東京高裁平成25年7月10日判決は、地裁判決を取り消しましたが、最高裁に上告受理申立てがなされ、最高裁平成27年9月18日判決(判例タイムズ1419号77頁)も、東京地裁の判断を誤りとしたものです。

    訴訟救助は国民の裁判を受ける権利の現実化に重要な意味があり、実務的にも重要な判断と思われます。

    【裁判・民事】自衛隊情報保全隊による国民監視文書の存在・監視行為の違法性を認定し、損害賠償を命じた仙台高裁判決(H28・2・2)と原告側声明・当事者コメント

    本日(2月2日(火)11時00分)に言い渡しがなされました。仙台高裁は自衛隊(国)の違法性を認定し、1名に賠償を命じました(原判決は5名でした)。

    判決文全文はおってご報告致しますが、まずは、原告側声明、自衛隊(国)によって非公開の氏名・職業が追跡明らかにされ、いまなお「反自衛隊」者として記載されている当事者のコメントを掲載します。

    〇 声明

    自衛隊の国民監視差止・賠償請求控訴審判決に対する声明

     

    1 本日、仙台高等裁判所は、自衛隊の国民監視差止・賠償請求訴訟につき、原審原告91名中1名に対し、慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡しました。

    2 200766日、陸上自衛隊情報保全隊の国民監視文書が公表されました。

    同文書には、国民の街頭でのアピール行為等の自衛隊イラク派兵反対運動など個人・団体の幅広い行動が、「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」「反自衛隊活動」として自衛隊によって監視され、個人名も含め詳細に記載されていました。
     私たちは、自衛隊の上記監視活動は、国民の思想信条の自由・プライバシー権はもとより平和的生存権を侵害する重大な違憲・違法な行為であるとして、人権保障の最後の砦である裁判所へ、司法救済(差止請求・損害賠償)を求め、同年105日、提訴し、仙台地方裁判所は、2012326日、原審被告の主張を排斥し、原審原告5名に対する違法行為・人格権侵害を認定し、慰謝料の支払いを命じました。私たちは、同判決で示された違法行為につき、自衛隊及び国(国会)に対し、自衛隊が何故本件監視行為に及んだのか、徹底した原因究明および防止策を求めてきました。
     しかしながら、原審被告は、仙台地裁判決や私たちからの求めを無視するかの如く、控訴審においても不合理・不誠実な主張・立証を重ねる有様でした。

    3 本日の仙台高裁判決は、仙台地裁に引き続き、自衛隊(国)の監視行為の違法性を明確に認定し、損害賠償を命じたものです。仙台高裁判決も、自衛隊(国)が頑なに作成の認否を拒否してきた本件内部文書が自衛隊(国)によって作成されたことを明確に認定した上、監視行為等の違法性判断基準について、情報収集行為の目的、必要性、態様、情報の管理方法、情報の私事性、秘匿性の程度、個人の属性、その他の事情を総合考慮する必要があるとし、自衛隊(国)の本件監視行為について違法性を認定し、損害賠償を命じたものです。

    4 仙台高裁判決は、仙台地裁に引き続き高等裁判所においても違法判断を示し、自衛隊(国)の監視行為の違法性を認めたものであり、自衛隊(国)の情報収集活動に一定の制限を加え、原審原告らの憲法上の人格権(プライバシー権)を認めたものであり一定の評価をし得るものです。係る判断は、仙台高裁で元保全隊長らの証人尋問を実施するなどの実体的審理が図られたことによるものです。

    しかしながら、原審で勝訴した4名はじめ多大な被害を受けた原審原告らの請求を棄却した点、差止請求を却下した点、憲法上の人権への理解が不十分である点、自衛隊の軍隊としての本質を捉えきれていない点、情報収集の必要性を認めてしまった点など不当な点があります。

    5 私たちは今回の仙台高裁判決を受け、国民の人権活動が違憲・違法に抑圧されることない、平和で自由な社会の実現のため活動を続けていくものです。

     

                                 2016年2月2日
                           自衛隊の国民監視差止訴訟原告団
                           自衛隊の国民監視差止訴訟弁護団
                    自衛隊の国民監視差止訴訟を支援するみやぎの会


    〇 勝訴当事者コメント

    自衛隊情報保全隊の私に対する情報収集・探索が違法だと繰返し認められた。当然の判決だと受け止めている。
     しかし,これで良かったと安心はできない。私の情報をいったいこまで探索したのか,どんな情報を収集・保有しているのか,国
    は全く説明していない。それが今後どのように利用されるかを考えと恐怖を感じる。
     違法に集めた本名や職業の情報,その他違法に集めた情報がれば,直ちに削除して欲しい。また,こんな国民監視は直ちに
    やめて欲しい。
     他の原告の請求が認められなかったのはおかしい。憲兵がやっいたような情報収集・探索は全部違法だと言って,すべての原
    告の請求を認めて欲しかった。

    【裁判・民事】漁業協同組合の理事会の議決にあたって、特別利害関係ある理事が加わっていたとしても、その理事以外で議決成立数が存する場合に議決の効力を認めた最高裁判例(H28・1・22)

    最高裁平成28年1月22日は、「水産業協同組合法37条2項が、漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事が議決に加わることはできない旨を定めているのは、理事会の議決の公正を図り、漁業協同組合の利益を保護するためであると解されるから、漁業協同組合の理事会において、議決について特別の利害関係を有する理事が議決権を行使した場合であっても、その議決権の行使により議決の結果に変動が生ずることがないときは、そのことをもって、議決の効力が失われるものではないというべきである。」「そうすると、漁業協同組合の理事会の議決が、当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても、当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものではないと解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第326号同54年2月23日第二小法廷判決・民集33巻1号125頁参照)。」と判示し、損害等の判断のため高裁へ差し戻しました。

    行政の貸付行為の有効性が問われた事案なので事件は行政事件として扱われていますが、今回の判示部分は、民事上、特別利害関係人関与の場面は多方面にわたり、影響ある判断と思われます。

    最高裁HP http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85620

    【裁判・民事】元プロ野球選手に関する週刊誌の記事について、記事の真実性を認めたものの、雑誌社に損害賠償を命じた裁判例(東京地裁H27・6・24)

    元巨人軍監督や選手に関する家族間の記事に関する事案です。東京地裁平成27年6月24日判決(判例時報2275号87頁)は、週刊誌記事の真実性を認める一方、事実の公共性・公益性を否定して、結論として雑誌社による名誉棄損行為を認定し、雑誌社に対し金165万円の賠償を命じたものです(控訴あり)。

    著名な事案であるなか、記事の真実性を認めながら、名誉棄損の成立を認める「珍しい事案」(上記判例解説)でもあり、実質上は原告側勝訴と言い難い内容と思われ、訴訟の結果と実体上の問題解決のずれを把握させる実務の一例とも思われます。

    【裁判・民事】事後に債務者が反社会的勢力であったことが判明しても信用保証協会の保証を有効とされる場合を示した最高裁判例(H28・1・12)

    最高裁は平成28年1月12日、信用保証協会が事後に債務者が反社会的勢力であったことが判明したことから保証契約の無効を主張していた事案で、信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し、金融機関において融資を実行したが、その後、主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁昭和35年(オ)第507号同37年12月25日第三小法廷判決・裁判集民事63号953頁、最高裁昭和63年(オ)第385号平成元年9月14日第一小法廷判決・裁判集民事157号555頁参照)。」との規範を示しました。

     

    同種事案について4件判断が示され、1件は「破棄自判」(結論として保証有効)、3件は「破棄差戻」(高裁での事実審理継続)とするものです。

    4件とも最高裁HPに掲載されています。

    http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/list2?page=1&filter[recent]=true

     

    「破棄自判」の上記規範へのあてはめが、実務上、有効・無効の振り分けを示唆していると思われ、以下、長いですが引用します。

    本件についてこれをみると、前記事実関係によれば、上告人及び被上告人は、本件各保証契約の締結当時、本件指針等により、反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負っており、本件各保証契約の締結前にAが反社会的勢力である暴力団員であることが判明していた場合には、これらが締結されることはなかったと考えられる。しかし、保証契約は、主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない。そして、上告人は融資を、被上告人は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、その場合に被上告人が保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず、本件基本契約及び本件各保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると、主債務者が反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを上告人及び被上告人の双方が前提としていたとはいえない。また、保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、既に上記主債務者が融資金を取得している以上、上記社会的責任の見地から、債権者と保証人において、できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の解消を図るべきであるとはいえても、両者間の保証契約について、主債務者が反社会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にその効力が否定されるべきものともいえない。そうすると、Aが反社会的勢力でないことという被上告人の動機は、それが明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず、被上告人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。」

    【裁判・民事】高裁において原審での訴訟上の和解を無効として、本案判決を行った裁判例(東京高裁H26・7・17)

    訴訟上の和解が無効とされたものでめずらしい事案です。

    賃貸借の立退事案で、原審において、被告(賃借人)が一貫して立退料340万円の支払いを求めるなか、証人尋問が予定されていた期日に裁判官が交替し、尋問前に長時間にわたり説得し、立退料220万円で訴訟上の和解が成立したとされたことについて、被告(賃借人)が和解無効を主張した事案です。

    『訴訟上の和解無効』といわれると和解時の裁判官に問題があったのではと感じられる向きもあるかもしれませんが、東京高裁において被告(賃借人)の立退料主張は「およそ考慮に値しない高額なもの」として、「立退料40万円」と判決されていることからすれば、和解時裁判官の実務的努力も十分にうかがえる感はあり、訴訟実務における理論と現実的解決との難しさや実務感覚を感じることのできるという点でも参考なるかと思われました。

    【裁判・民事】債務整理を司法書士に依頼した債務者(借主)から、委任後に時効期間が完成し消滅時効を援用した事案につき、援用行為が信義則に違反するとまではいないとして時効消滅を肯定した裁判例(東京地裁H25・6・10)

    東京地判平成25年6月10日(判タ1415号298頁)は、貸金業者としては訴え提起による時効中断が可能であったこと等を指摘し、司法書士の対応に不誠実な点がみられるにせよ、債務者(借主)の消滅時効援用行為に信義則に反するものとまでいうことはできないとして債務消滅を認めました(原審東京簡裁平成24年1月9日判決を破棄し自判したもので確定しています)。

    債務整理の実務上も重要な事例と思われます。本件の貸金業者は、株式会社オリエントコーポレーションです。

    なお、消滅時効の事案では、債務者(借主)の時効完成後の返済などがあると、業者(貸主)側から、最判昭和41年4月20日(民集20巻4号702頁)を引用して『援用は信義則違反』と主張されることがありますが、同判決は、債務者(借主)が債務存在を認めたのみならず積極的に具体的返済計画等の申し入れを行っていた事案であるなど個別具体的な事実関係に基づく判断ですから、現在の、貸金業者・消費者という関係に一般的に妥当するものではない点などは注意が必要です。